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(社会人設定)

いつも目が覚めると、真っ赤な色が目に入る。布団をぬくぬくと温めている彼の髪の色だ。一緒に住み始めて2年。今年も、寒がりな私が彼の暖かさに頼る季節がやってきた。
目をうっすらと開けると、カーテンのすき間から漏れて見える太陽の光。もう朝かあ。隣りからはまだまだ起きなさそうな寝息が聞こえて、一緒に眠りたくなってしまう。いっそのこと寝ちゃおうかな。どうせ休みなんだし。

そう思ってから、はっとする。そう言えば今日は買い物に行くって言ってたっけ。ブン太の新しいワイシャツを買いに行くって。


「うー…ん」


そうは言っても当の本人は相変わらず布団を温め続けているし、恐らくそれは私が彼を起こさない限り終わることは無いだろう。でもそうは言っていられない。私は意を決して布団から出ようと今までブン太の方を向いていた顔を反対に向けた。でも、やっぱりこのぬくぬくが私の心を揺さぶるのだ。


「ブン太あったかすぎるよう」


そう独り言を呟いて、あと5分だけ、とブン太の方に顔を戻す。もぞもぞとブン太の手を持ってきて冷たくなった自分の鼻に当てる。あったかくて気持ちいいなあ、ブン太の手。布団の中からはブン太の匂いもしてきて。ただでさえ布団から出られないのに、更に出たくなくなってしまう。



そうやっている内に、あっという間に予定の5分が過ぎてしまった。はあ、出るか。諦めて手で布団を小さくはいで身体を起こした、そのときだった。

ブン太の腕が腰に回って、また暖かい布団に引き戻される私の身体。ああ、暖かい…。


「も、起きんの?」


私の肩に布団をかけながら、目をこするブン太。寝起きのブン太は機嫌が悪いのかと思いきや意外と優しくて、そしてものすごく甘えん坊なのだ。こうやって休みの日に起きるときは私が起きようとすると、こうして甘えてくる。ぎゅうっと私を抱きしめて、前を向いている私の髪に鼻をぐりぐりと押し付けてくるブン太は可愛くて私は大好き。

「うん、だって今日買い物に行くんでしょ?」
「…行く」
「だったらそろそろ起きないと」

「えええ…」。そう言ってブン太はまた私を抱きしめる。もーきゅんきゅんするから!ほんと!

「買い物行きたいひとー」
「はーい」
「まだ寝たいひとー」
「…はーい」
「どっちにするのよ!」

こうしてる間にも、布団とブン太のぬくぬく攻撃で私の中の決意は揺らぎ続けているのだ。だから少しキツいくらいに言わないとね、こういうブン太には!

「買い物は午後から行けばいいじゃん」
「…確かに」
「だろい?じゃあもーちょい寝よーぜ」

今度はふわふわと私の頭を撫でるブン太。こういうことしちゃうんだから、私は言うことを聞いてしまう。
私は諦めてブン太の方に顔を向けるように身体を動かした。

「おはよう」
「うん、おはよう。んっ」

私が振り返ると、ブン太は腕枕をしようと腕を伸ばす。頭を上げて腕が通ったのを確認して、そのまま自分の方へ私を引き寄せた。

「捕まえたー」
「はい、捕まりました」

おでこにちゅっとキスをされて、眠そうなブン太と目が合う。

「もー、本当に甘えん坊なんだから」
「ひなこに甘えられんのは俺だけの特権だし」
「じゃあ私もブン太に甘えるー」

ブン太の胸に顔を埋め、目を閉じる。そうすると、ブン太の熱が伝わってきて、ブン太の匂いに包まれて、ああ、大好きだなって思うの。

「俺、休みの日にこんな風な朝を過ごすのすげー幸せ」
「私も。布団もあったかいしーブン太もいるしー」
「……」

ぐう。瞬く間に、私の頭に自分の顔をすり寄せるようにしてブン太は寝てしまった。見上げた時にほっぺたにかかる寝息がくすぐったい。あったかくて、優しくて、甘えん坊で。寒い日の朝にだけ、こんなにもたくさんの私に幸せをくれるのだ。


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