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(大学生設定)

ゴーン。12時を告げる金が鳴った。あーあ、やっぱり今年も一緒に迎えられないんだなあ。きっと今景吾は、毎年開かれる景吾の誕生日会でたくさんの人から祝われているところだろう。20歳を迎える誕生日である今日は、特に。

私は景吾の部屋にある大きなベッドにぼすんと横たわった。シーツは毎日洗っているらしい。ベッドは1年に1回取り替えるんだって。
ねえ、景吾が毎日寝てるはずなのに何も匂いがしないよ。1人で待ってるとね、景吾がわかんなくなるの。

「いつになるのかなあ…」

私が呟いた言葉は、広い部屋に吸い込まれて消えていった。景吾と付き合ってから数年が過ぎた。毎年この日を迎えるのが本当は嫌なのだ。たぶんそれは、1人でここにいると景吾がすごく遠くに感じるから。
私の知らない大人達にお祝いされてる景吾と、その景吾を1人で部屋で待つ私。景吾が来るまで、私は知らないところにいる気さえする。

そのままベッドに横になっていた私だったけど、廊下からバタバタと走る音が聞こえてきて起き上がった。なんだろうとドアに近づくといきなりドアが開けられた。

「わっ」
「今すぐこちらへ来てください!」
「ちょ、え?」

いきなり入ってきたメイドさんは私の腕を掴んで走り出した。私は何が何だかわからないままメイドさんと一緒に走る。メイドさんはとある部屋に着くなり勢いよくドアを開けて私を中へ入れた。

「早くて助かったわ!あなたは服着せて!」
「メイクは軽くでいいですよね?」
「髪巻いててよかった!アップしてもいい?」
「あ、は、はい…」

え、これどういうこと?メイク?ドレス?…は?
てきぱきと動くメイドさん達を見ても全くわけがわからない。誰かに聞きたいけど、みんながあんまりに忙しそうだから聞けないし…。
そして結局何もわからないまま、鏡の前でどんどん変わっていく私。真っ白なドレス、完璧なメイク、綺麗にアップされた髪。そして最後に靴を履くと「それではこちらに来てください!」と言われて再びメイドさんと廊下に出た。

「あの、本当にどうしたんですか?」

メイドさんは私の方を見てにっこりと笑うだけ。しばらく歩くと、大きな扉の前に着いた。

「頑張ってくださいね」
「え…」

メイドさんがドアを開けた。ま、眩しい…!私は思わず目を細めた。

「ひなこ」
「……は?」

目の前にはいっぱいの人と手を差し伸べた景吾。私の顔を見るなり、わあっと歓声のようなものが上がって割れるような拍手が会場を埋め尽くした。
私は流されるままに景吾の手に自分の手を重ねた。すると、なんと景吾は私の目の前で膝まずいて、手の甲にキスをしたのだ!…え?私はぽかーんとそれをひたすら眺めた。そんな私の顔を見てくくっと笑った景吾の顔によって、現実へ戻された。かあっと赤くなる私の顔。景吾はそんな私の手を引いて、そのまま壇上へあがった。

「皆様に紹介します。私の恋人のひなこです」

景吾に名前を呼ばれて思わず肩がびくっとなる。えっ、てか何これ?そんな私に構わず、再びわあっと歓声が上がった。ヒューヒューと高い音も聞こえて、私は恥ずかしくなって下を向いた。

「20歳になり成人を迎えた今日、まだ大学生であり未熟ではありますが、ひなことのこれからを真剣に考えていきたいと思い、彼女を紹介させていただきます」

景吾の声がマイクのエコーにより、会場に響き渡る。こんなにいる人がみんな静かなんて。…すごい。やっぱり景吾は、すごい人なんだ。そして名前を呼ばれた私はきっと、初めて、景吾の隣にいることを許されたんだと思った。
同じ氷帝学園出身であることや交際期間などを、景吾は説明してくれた。紹介が終わり顔をあげると、たくさんの人が私を見ていて。景吾くんをよろしく!とどこからか声が聞こえて、私も景吾も驚いた。

そして景吾は私へマイクを向ける。なにかいえ。景吾は口パクでたぶんそう…ええ!なにかって何!わ、わかんないよ!

「こ、こんばんは、…ひなこです。えっとまず景吾、誕生日おめでとう」
「あ、ああ。サンキュー」
「…あと皆さん、景吾がいつもお世話になってます。本当に、ありがとうございます」

私はそう言って頭を下げる。たくさんの人からははっと笑いが漏れ「いいぞ!」と声がかかった。ねえ、あとなにを言ったらいい?もうないよ?助けて、とそんな目でちらりと景吾を見る。しょうがねえなあと下を向いて景吾は笑った。

「キスしなよ、キス!」
「えええ!」
「ばっ」
「…!」

はあああ。景吾のため息が聞こえてきて、私もつきたくなった。いや、ダメダメ!出る直前のため息を飲み込む。ってかキスってキス?嘘でしょ!…何人いると思って!会場にいる人達は、お酒を飲んでいることもあってかもう完全にその気になり、盛り上がっていた。

「…ったく」
「ちょ!」

私の顎をくいっと持ち上げる景吾。まじ?まじで?えええ嘘!もう間近にある綺麗な顔に、私は固まった。…が、結局どこにも触れることなく景吾は離れていった。

「すみません、…やっぱり2年後まで待ってください」












会場の外へ出ると、一気に疲れに襲われた。あんなにたくさんの人の前で、景吾っていつも話してたの?…やっぱり景吾ってすごい。なんか今日はもう、そればっかりかも。

「悪かったな。疲れたか?」
「まあ…」
「先に部屋で寝てろ。もうそろそろ終わるだろうからな」
「うん、わかった」
「……待て」
「ん?」
「綺麗だぜ」
「えっ」

いきなり何を言うかと思えば…!そう驚いて何も言えずにいると、景吾の顔が近づいてきて、唇が重なった。離れては近づいていくようなキスを何度も繰り返す。キスしてるときが一番幸せ。ほんとに好きだよ、景吾。
キスが終わって景吾が離れていくと、私は思わず景吾の腕を掴んだ。

「どうした?」
「えっ、あの…さっきのことって本当?」
「…真剣にってことか?」
「うん、そう」
「…ばーか。あんなところで嘘つくわけねえだろうが」
「……私でいいの?」
「…俺様はお前がいい。好きだぜひなこ」

そう言って景吾はもう1度キスをした。どうしよう、私、こんなに幸せなことってないよ。少し前まで嫌だと思っていたなんて信じられないくらいに、今の私は幸せに包まれている。これからはきっとずうっとこんな気持ちでいられるんだって、私は信じてるよ。景吾、ハッピーバースデー!


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