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私の大好きなだーい好きな赤也が、今日、誕生日を迎えた。眠いのも我慢して、ゲームに勤しむ赤也と電話をして今日の日を迎えた私。でも0:00を迎えた瞬間、「ハッピーバースデートゥーユー…」と私が歌い始めると、ゲームの音が突然止んで。赤也が私のためにわざわざ音を消してくれたのかと思うと、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになった。



そうして目覚めた私は、朝からるんるんだった。だって何度も言うようだけど、今日は赤也の誕生日!私が嬉しくない訳がない!楽しくない訳が無い!それに、今日は昨日まであった新人戦の振替休日で、赤也と一緒に学校帰りにケーキを食べに行こうと話していた。その後は赤也が好きなゲームセンターに行って、誕生日おめでとうのプリクラを撮るんだ!もう何日前から今日が楽しみだったことか。赤也はいつも遅く学校に来るからとその時間に合わせて赤也の教室へ向かう私は、スキップしようとする足は抑えられても、鼻歌までは止められない。

教室に近づくと、丁度赤也も教室に入ろうとしていた。

「赤也!誕生日おめでとう!」

少し距離があるけど気にしない!赤也は私の声に気づいてドアに掛けていた手を引っ込めると、小走りで自分の方へ向かってくる私の方に顔を向けた。

「おー、ひなこおはよ」
「おはよ!」

抱きつきたい気持ちをぐっと堪えて、我ながら満面の笑みで赤也に答える。

「昨日の夜はサンキューな」
「ううん!赤也も電話に付き合ってくれてありがとう」
「ちゃんと寝たのかよ?」
「うん、朝まで熟睡だったよ!」
「俺も俺も」
「あ、そっか。昨日はお疲れ様でした」

ふあ。と大きな口で欠伸をする赤也に、頭を下げる。…あれ?目の端に映ったものに、私は疑問を持って目を向けた。

「…赤也、今日部活休みなのになんでテニスバッグ持ってきてるの?」

廊下に置かれた、立海大附属校専用のテニスバッグを見ながら言うと、赤也は「うわっ」と声を漏らした。

「わりーひなこ!今日部活休みじゃなくなった!」
「えっ」

一瞬で頭の中が真っ白になった。休みじゃなくなった…?

「なんで?だって昨日優勝したって…」
「あー、まぁ優勝したんだけど、昨日の試合の内容あんま良くなくてよ。それで昨日大会の後監督とコーチと話し合って、今日練習やることになったんだよ」
「…でも、今日、赤也の誕生日なのに」
「そりゃそうだけど…誕生日が部活なのはみんないつものことだし」
「……いつものことじゃない!」

私が少し大きい声で言うと、びっくりして目を丸くする赤也。だって私、ずっとずっと前から楽しみにしてたもん。生まれて初めて付き合った、大好きな赤也の誕生日を一緒に祝いたかったんだもん。それなのに、過ごせなくなっただけでも悲しいのに、赤也は私に言うことすら忘れてたなんて。赤也はきっと私みたいに楽しみだった訳じゃないんだ。そう思うと悲しくって、悔しくって、目の前がどんどんぼやけていく。なんでよ。どうして。

「私、今日、すごく楽しみにしてたんだよ!」
「だ、だから悪かったって」
「なんで言ってくれなかったの!」
「……」

「ごめん。」小さく呟く赤也に、私は一体どうしたらいいんだろうか。いいよって、他の日にしようって言ったらいいんだろうけど。でも、そんなことどうしたって言えないよ。こんなに悲しくて、悔しくて、もやもやした塊が詰まった口を開けても、そんな言葉は出てこないよ。なんで今日なの。どうして赤也の誕生日なの?朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴り響く。私は何にも言えないまま、自分の教室へ帰った。









朝から、いや、何日も前から楽しみにしていた放課後がついにやってきた。本当であれば、赤也が迎えに来てくれるのを待って、2人で駅前のいつもは買えない少しお高めのケーキ屋さんでケーキを食べて、ゲーセンに行ってプリクラを撮って。沢山話して、沢山笑って、赤也との時間を過ごすはずだったのに。
赤也からは授業中や休み時間も、何回も連絡が来ていた。でも赤也の名前が携帯に映る度にもやもやした気持ちで私の胸はいっぱいになってしまう。教室へも来るかと思って休み時間はずっとトイレに引きこもってたし、お昼休みはいつもは一緒に食べない他のクラスの友達と食べた。なんで私、赤也の誕生日にこんなことしてるんだろう。そう思ってまた更に悲しくなったけど、でも赤也と面と向かってちゃんと話せる気がしなかった。

授業が終わって、すぐにまたトイレへ向かう。放課後デートへ行くのか、はたまた友達と遊びに行くのか。可愛くメイクしている女の子が何人もいた。私だって!そうカバンの中にある重たいメイクポーチを思うと、やっぱり悲しかった。
頑張って時間を潰して、ようやくテニス部の練習が始まる時間になった。私はほっとしてトイレの外に出る。どうしよう。…もう、帰ろうかな。ふらふらと廊下を歩いて玄関へ向かう途中、テニス部のコートが見えた。昨日新人戦の地区大会を優勝したはずのテニス部は、今日も変わらず部活をしている。他の部活はほとんど休みだった。みんな、もう帰ってるのになぁ。ぼんやりとそのままテニス部の練習を見ていると、部員達が一斉に一箇所へ集まっていく。その中心には、赤也がいた。

「…ぐすん」

昨日、いっぱい頑張ったのに。今日、誕生日なのに。大好きな先輩方の思いを受け継いだ赤也は、きっとそんな理由では妥協したくなかったんだね。窓越しの赤也がぼやけて見えなくなる。赤也だって昨日疲れてたのに、私の電話に付き合ってくれたんだよね。対して上手くもない変な歌をちゃんと聞いてくれて、今日の朝だってお礼言ってくれて。頑張っている赤也を見れば見るほど、朝の自分に後悔してくる。あーもう!私のばか!今日は私の誕生日じゃなくて、赤也の誕生日なのに!大好きな赤也の誕生日なのに!
涙を拭って、私は携帯を取り出す。「練習お疲れ様。終わったら連絡ください。」それだけ書いて送り、私は自分の教室へ戻った。





それから3時間くらい経っただろうか。初めは起きていた私だったけど、携帯の充電も無くなりそうになりうつ伏せで眠ってしまっていた。今、何時だろう。電気を付けていたお陰で教室内は明るいものの、外はだいぶ暗くなっていた。寝ぼけたままでとりあえず赤也からの連絡の有無を見ようとスカートのポケットに手を突っ込み携帯を掴む。どんどんどんっ!廊下から誰かが走ってくる音が聞こえて、私は驚いて廊下の方を見た。その足音は私のクラスの前まできて止まり、そしてドアが勢い良く開けられた。

「ひなこ…」

ドアの向こうには、はぁはぁと肩で息をする赤也が立っていた。部活のジャージのままだった。寝起きの私には、今はまだ赤也が来たことに対する驚きの感情か生まれていない。そのまま歩いて私の椅子の横にきた赤也は、座ったままの私をぎゅっと抱きしめた。

「ぜってー帰ったと思ってた」

「携帯見て、教室に電気付いてたからまじでびびった。」赤也の体温が熱くて、部活を頑張ってきたことがわかる。そして走ってきてくれたことが嬉しくて、私の心がぽわぽわと温かくなってくる。

「ごめんな、練習あるの言わなくて」
「ううん。私の方こそ、ごめんなさい」

赤也の方が部活で大変なのに、謝ろうとしてくれる赤也を突っぱねて、私ばかりが辛いと思ってしまった。こんなに赤也のことが大好きなくせに。考えれば考えるほど、私ってばかだ。

「ひなこはいーんだよ。…でも」
「いたっ」

赤也の腕が離されて、代わりに頭の上から軽いゲンコツが降ってきた。

「避けんのはやめろよな、悲しくなんだろ」

私を睨むようにそう言った赤也だけど、私は赤也がここにいてくれる事がとっても嬉しくて、えへへと笑った。赤也がもう一度ぎゅうっと強く抱きしめてくれて、そしたらまたすぐに離れて。赤也を見上げる私に「待っててくれて、ありがとな。」大好きな赤也の声と共に、鼻の頭にちゅっとキスが降ってきた。

ね、赤也。ケーキも、プリクラも、後でいいや!だから、今日は一緒に、手を繋いで帰ろうね!赤也!ハッピーバースデー!


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