◎幸せのなり方 芥川side


みんな幸せになれたらいいのになぁ。心結も小春も宍戸も跡部も…もちろん、仁王も赤也くんも。
…なんて俺が思うのって変なのかな?




「ジローおはよー!」


登校中に後ろから声をかけられ、しかし、俺が振り返る前に横を通り過ぎていったのは心結だった。


「おはよー!」


心結の背中にそう言った俺に対して、心結はスピードを緩めて俺の方を振り返り手を振った。





「仁王な、本当に好きなんだよ」

「あの時の仁王を変えたのも心結ちゃんだし」

「いつもよくわかんねえ仁王だけどよ、心結ちゃんの事になるとすげーわかりやすくてさ」


あの日俺は、仁王の気持ちをブン太くんを通して聞いた。それは俺が思っていたよりもずっと重くて、そして深かった。俺の中で、仁王のイメージは大きく変わった。

その時、俺はふと考えてしまった。





心結が行ってからしばらく歩いていると、頭をぽんと叩かれた。


「あ、宍戸おはよー!」
「おお、おはよう」
「今日も早いねー、朝練?」
「そ。長太郎と約束しててな」
「あれ、長太郎結構前に行っちゃったよ?」




"俺達が宍戸に好きだってことを伝えなければ、心結と仁王は上手くいっていた?"




「あー、やっぱりか。あいつ、いつも待ってんだよな」
「でもそれだけ宍戸のこと慕ってるってことだC!」
「そりゃありがてーんだけどよ」


宍戸はそこまで言うと、テニスバッグを肩に掛け直し「じゃあ先行ってんな」と俺に告げて学校へ向かって走っていった。



今思うと、俺が一瞬でも考えた事は、宍戸に対して本当に失礼な事だった。俺達が宍戸に言わなくたっていつか自分で気づいてたはずだし、ましてや宍戸が自分の気持ちに気づこうが気づかなろうが心結と仁王が上手くいくのかなんて関係ないんだ。

宍戸と心結が上手くいってほしいという気持ちは変わっていないはずなのに。好きという気持ちには比べようがないのに。
仁王の想ってきた年月と深さと、一瞬でも比べてしまった自分が悔しかった。

俺がどう思おうが、誰を応援しようが、だからどうなるということでない事もわかってる。それでも宍戸を応援してきた俺としては、何となく宍戸を裏切った気がして仕方なかった。



「宍戸ぉー」
「な、なんだよ」
「これついでに持っていって!」


宍戸と練習前に歩いていると、ドリンクの入ったタンクを目の前にして悲しそうな顔の心結から声をかけられた。今日は小春が遅れてくるらしく、心結は1人で準備をしていた。


「良かったー、2人が通ってくれて。1年生誰も通らないんだもん」
「小春いねーから、心結に頼まれ事されるのが嫌なんじゃねえの」
「えー!そうなのかなー」

「心結って人使うのが上手いっていうか、荒いってうかね」
「なんと!そんな風に見られてたのね!」


「でも1人で遅くなるよりは、みんなにちょっとずつ手伝って貰いたいじゃん?」。そこから独自の見解をみせる心結を、俺と宍戸は2人笑った。


「はは、別に今日はたまたまだろうけどよ」
「うーん…まぁ、もし万が一そうだったらこれからは宍戸にお願いしちゃおーっと」
「えーなんでー?」
「宍戸って頼んだ事何だかんだ言いながらやってくれるもん、ねー」
「へへ、宍戸優しいC!」

「ジロー今知ったのー?私はずっと前から知ってるよー」
「あーあーうるせーうるせー」


そう嬉しそうに話す心結と、恥ずかしそうにする宍戸。そして、それを見て嬉しくなる俺。
あんな事を考えてしまった俺でも、宍戸嬉しいんだろうなぁなんて考えるし、俺はやっぱり目の前の事を応援してしまう。



……心結は、誰を好きになるのかなぁ。


そう思って心結の事を見ていても、みんなに同じ笑顔を向けているのと、みんなを好きなんだって事がわかっただけだった。俺は嬉しいような、悲しいようなよくわからない感覚になった。

人を好きになるって言うのは、俺が思ってる以上に難しい事らしい。結局はみんなが幸せになるなんて無理なのかもしれない。

でも、それでも俺は、幸せになって欲しいって願ってしまうんだ。



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