◎びっくり返し 小春side


お昼休み開始を告げるチャイムが鳴る、少し前。1番に教室を出た私は、お弁当を持って心結のクラスへ向かっている所。今まさに、いつも迎えに来てくれる心結を、授業が早く終わった私が迎えに行って驚かせよう!作戦実行中なのである。…なお、実行者は私1人。

心結のクラスまで来る途中でチャイムが鳴り、それからすぐに教室から出てきたは見知った顔の人物。


「あれ、宍戸?」
「お、小春。珍しいな、昼にこっちにくるなんて」
「授業少し早く終わったから、心結の事迎えに来たの!」


私の無駄に高いテンションに、宍戸はきょとんと目を丸くして。でも、心結を驚かせようとしている事を話すと、面白そうだなと笑った。


「じゃ、後で結果教えてな」
「え?宍戸は?」
「さっき放送で風紀呼ばれてただろ?それで、今日は屋上行かねーんだよ。心結には言ってるけどな」
「そうなのね。わかった、じゃあ部活でね」
「おう」


宍戸は片手を上げると、屋上へ向かう道とは逆の方に歩いていった。
そんな宍戸を見送ってから、心結に会おうと教室に入る。心結は私の教室に行くところだったらしく、お弁当を抱えて友達と話していた。


「心結ー!」


自分の名前を呼ばれて、こちらへ振り返る心結。


「…ええ!小春だ!」
「迎えに来たよー!」







「私、そんなに行くの遅かった?」


一緒にいた友達とばいばいをし、隣りを歩く心結が聞いてくる。どうやら、私が迎えに行ったのを自分が遅かったせいだと思っているらしい。


「ううん、私が早く授業終わっただけだよ。心結の事驚かそうと思ってね」
「あ、そうなの?」
「そうそう!びっくりした?」
「したよー!だって小春、3年で屋上でお昼食べるようになってから数えるくらいも迎えに来てないもん」
「…それはそうかも」


言われてみれば、久しぶりとは思ったものの、迎えに行ったのは先月の話かも…。でも記憶はあるから、無い訳じゃないはず!


「ま、いいんだけどね」
「いつもありがとうございます。…あ、そう言えば一昨日ね、赤也くん結局長太郎の家に泊まらなかったみたい」
「え?なんで?」

「次の日練習あるから、東京だと寝坊したら一貫の終わりだからって」
「あー、なるほど。その気持ちわかるよ、赤也くん」
「ふふ、遊びに行った後は少し疲れちゃうしね」
「練習とは違う疲れがね」
「うんうん、わかる」


「マジで真田副部長怖いんすよ!」と、中学から変わらない先輩への恐怖を惜しげも無く私に語ってくれた赤也くんを思い出して、私は思わず笑ってしまいそうになる。


「そう言えば、仁王くんは?あの後一緒にご飯行った?」
「え…」
「……え?」


いきなり何も言わなくなった心結の方を見ると、耳まで真っ赤になっていた。えっ、待って待って!こんな心結、今まで見た事無い!


「ち、ちょっと心結大丈夫?…まさか、仁王くんに何かされた?」


思わぬ心結の反応に、私の方が焦ってくる。そして答えはイエスかノーかの私の問いに、何故だか首を傾げる心結。……え、どういう事?


「…あ、あのね」

「あの後私もまさお腹空かなくて、まさが私の事送ってくれるって言うから一緒に歩いてたの」

「それで、ほら、私の家の近くに公園あるでしょ?そこに寄って、少し話してたら、ね」


そこまで言うと、心結はいきなり立ち止まった。私もつられて、一緒に立ち止まる。すると心結は、私の耳へ顔を近づけて。


「まさに、ちゅーされたの」



「…えええ!」


私の声に驚いた心結は、肩をびくっと震わせる。


「ご、ごめんごめん。でも、……え?」
「…はい」
「えっ、待っ……ど、どうしてそうなったの?」


顔が赤いままの心結に、急かすように聞いてしまう。
でも、仁王くんが何にもなく心結にそんな事をするなんてとてもじゃないけど思えなくて。仁王くんは心結の事を、まさしく"壊れ物でも扱うかのように"接していると私は思っていたから。


「うんと、小さい時の話したでしょ?」
「あ、動物園の事?」
「そう。それで、あの時全部思い出せた訳じゃなくてね」


私、当時すごい泣いちゃって、まさが慰めてくれたんだけど、どうやって泣き止んだのかがわかんなくって。だって、小さい子って、そう簡単に泣き止まないでしょ?
心結は続けてそう言って、困ったように眉を八の字にした。


「だからまさに聞いたんだけど、最初は教えてくれなくて。私もしつこく聞いたんだけど」
「うん」
「…で、教えようか?みたいに言われて……それで、うん」
「えー!嘘!なんかマンガみたい!」


私の言葉に「やめてよう!」とやっぱり頬を赤らめて言う心結は、なんだかとっても可愛くて。仁王くんの気持ちもわからないでもない、と私が言うのは変かもしれないけど、きっと大好きな心結に思い出して欲しかったんだろうなぁ。


「……うん。でも、わかった」
「…びっくりした?」
「したよう!私が先にびっくりさせたはずなのに、全部吹き飛んじゃった」
「えへ、ごめんね」


でも、心結の様子を見る限りでは嫌悪感はあまり感じられない気がした。ただ心結自身が、仁王くんをそういう目で見ていなかったのはあると思うけど…。


「あ、もう屋上だね」
「顔、赤くない?」
「ふふ、うん。大丈夫」
「…じゃあ小春のは、部活前にね!」
「んー、特に何も無かったけど、了解」


私の言葉に心結は笑顔で頷いて、ドアノブに手をかけた。



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