◎ いつもの日々 小春side


「小春!」


4校時の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、クラス中ががやがやとざわつき始める。座り続けて固くなった筋肉をほぐすために腕を伸ばしているところで、名前を呼ばれた。


「はーい、今行くね」


私はそう言って一度席を立つ。
ミーティングも含めて、毎日昼休みにテニス部のレギュラー(3年のみ)で集まって昼食をとるのは毎日の日課だ。ほとんど毎日のように、心結が私を迎えに来てくれていた。


「早く早くー!」


心結がお弁当を抱えて私に急かすのも、いつもの事。私は鞄を開けてお弁当を出し、心結のところに行こうと顔を上げる。すると心結が横を向いて誰かと話しているのが目に入った。


「あれ、…そっか…行く?」


何話してるんだろう?そんな事を思いながら教室のドアまで行くと、話している相手が見えてきた。


「小春、今日跡部も一緒に行くって!」
「悪いな」
「ううん、全然いいよ!どうせ行くところ一緒だしね」
「うむうむ。…と、言うわけで、私ちょっと用事あるから先行くね!」


そう言って心結は景吾の方をチラッと見ると、軽く走るようにしながら1人で先に行ってしまった。


「ふん」
「どうしたの?」
「いや、さっさと行くか」
「うん!」


教室から近い、屋上へ続く階段を登ってドアを開ける。一瞬ふわっと風が吹いたかと思うと、いきなり入ってきた日光に目を瞑った。


「小春と跡部おっせーよ!」
「ごめんごめん。…って、いつもとそんなに来た時間変わんなくない?」
「岳人んとこのクラス、体育あったから腹減ってるんやと」
「そうなんだ!そりゃあお腹減るね」

「まーま、岳人のことは置いといて座って座って」
「おい!」
「ふふ、はーい」


私はいつもの定位置に座った。私の隣は景吾とジローで、ジローとその隣のガックンを挟んで心結、宍戸、忍足って感じに丸く並んで座っている。


「よし、みんな揃ったね」
「それではではっ、いただきまーす!」




「跡部、今日のご飯は何ー?」
「…心結、その目をなんとかしろ」
「いつも跡部の弁当何か聞くC」
「そっ、そんなことないし!」

「そうだよねー、宍戸?」
「あ?あー、そうなんじゃね?」
「宍戸にも言われてっし!」
「酷い!いいもんねー、宍戸のデザートのりんごもらうから」
「りんご?それくらいやるよ」


「ほらよ」、そう言ってりんごの入った入れ物を心結に向ける宍戸。


「え、本当にくれるの?ありがとー!」


心結は迷うことなく、その中に入っている中で一番大きいと思われるりんごを摘んで口の中にいれる。「おいひー!」と笑顔で言う心結を、あげた張本人の宍戸はガックンたちと一緒になってケラケラと笑っていた。


「そういえば」
「うん?」
「今日の練習だが、5時には終わることになった」
「えっそうなの、いきなりどうして?」


最近は日が長くなってきているからか、結構遅くまでやっていて。その分部員のみんなにも疲れが見えていたから、正直心配だった。だから良かったと言えば良かったんだけど。


「今日の3校時が終わった後監督に呼ばれてな。今日は自分が見に行けないし、最近練習時間が長いから今日は5時に終わらせていいってよ」
「やたー!久しぶりに早く帰れるう!」
「ま、最近の練習でほかの部員も疲れてるだろうとは思っていたんだがな」
「うん。ナイスタイミングだね、監督!」
「そうだな」





「あーあ、もう鳴っちゃった」


お昼休みを告げる鐘が鳴り響くと、心結がつまらなそうに呟いた。ご飯を食べてる間も、食べ終わった後も、みんなと話すのは楽しいからお昼休みはいつもあっという間に終わってしまう。


「うっし、じゃあ俺先行くな!また部活で!」
「俺も先行くわ。ほなまた」
「じゃあねー」
「心結、俺ら次化学で移動だぞー」
「はーい!…跡部、小春のことよろしくね」


にっこり笑って、心結は跡部にそう声をかけて屋上を出ていった。


「景吾は移動教室とかない?」
「ああ」
「良かった、もう少しだけ待ってね」


私は人よりも少しおっとりしていると言われるからか、景吾のことをいつも待たせてしまう。でも嫌な顔1つせず待ってくれるから、それについ甘えてしまって。
慣れているから、なんだろうけど…。


「これで良し。景吾お待たせ、じゃあ行こう!」
「おう」
「えへへ、いつもありがとね」
「別に気にすんな。…幼なじみだろ」
「え…うん、そうだね!」



景吾でも、幼なじみとかって気にしたりするんだぁ。そんなことを考えていた私には、その言葉を発したときの景吾がどんな顔をしているのかわからなかった。


そう、まだ私は、わからなかったんだ。



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