腕をあげては下げ、を繰り返してもう何分が経つだろう。何度も扉を叩こうとする拳は、緊張で汗ばんでいる。バクバク鳴り響く己の心臓がうるさくて仕方ない。
市丸の部屋の前。なぜここに居るかというと、本日は九月十日、あの市丸の誕生日であるからだ。昼間にお祝いはした。プレゼントも渡した。けれど、年に一度しかない特別な日なのだから、時間の許す限り一緒にいてやりたかった。そして日付が変わるまで何度も何度もおめでとうと言いたかった。
そういうわけで、いつまでもこんなところに居たって仕方がない。
日番谷は意を決して、市丸の部屋の戸をノックした。
「…い、市丸っ!お前に、プレゼントがあるんだ…」
心臓がうるさいほどに鳴っている。今から口にする言葉を考えると、恥ずかしくて顔から火をふきそうだ。
「え?プレゼントならちゃんと昼間もらったで?」
「違っ、別の……で、」
日番谷は単にお祝いするという目的だけでなく、ある決心をしてこの部屋にやってきていた。恋愛事に関しては頼りになる副官に、恥を忍んで相談したところ、一番喜んでもらえそうなことがこれだという結論に落ち着いた。
「プレゼントは…、」
ああ、口から心臓が飛び出そうだ。たぶん顔は林檎のように真っ赤だろう。今までの人生でこんなに緊張したことはないかもしれない。
ドキドキする胸元を右手で押さえ付け、覚悟を決めて口を開いた。この際恥なんか捨ててしまおう。
「お、俺……!」
「何?」
「だからっ、プレゼント!」
「うん、?」
「ああもう…っだから! プレゼント、俺をやるって言ってんだ!」
「…僕に?」
「…当たり前だろ!」
言った瞬間ぐいっと引き寄せられた。ふわりと市丸のにおいがしたかと思うと、ぼすん、と顔がその広い胸板に埋もれる。ぎゅっと力を込めて抱き締められた。
「ほんまにくれるん?嘘やない?」
「おう…」
「ちゃんと意味、わかっとる?」
「馬鹿にすんな」
付き合って最初の誕生日。へらへらと変態な言動に反して、未だに手は出されていない。
手も繋ぐし普通にキスもする。だけど、それ以上は絶対に手を出してこない。あの市丸が。信じられないと人は言う。
それほどに大切にされているんだと思うととても嬉しかった。
今のように強く、優しく抱き締められているとき、俺はとても幸せだ。
自分からあんなことを言うのはとても恥ずかしかったけれど、半ばやけになりつつも伝えられたその言葉は大きな意味を持つ。
自分自身をプレゼント、ということは『お前の好きにしろ』と全てを差し出しているに等しく、とても勇気のいることだった。
日番谷の精一杯の気持ちと、市丸への愛がいっぱいに詰まった魔法の言葉。
本当に、市丸になら何をされてもいいと思った。
「だいすきやっ」
「…ふぅん」
「日番谷はんも僕のこと好き?」
「っ、す…きだ」
「あは、僕幸せもんやなぁ」
そう言って市丸はもう一度細い身体を抱き締めると、にっこりと笑って身体を離した。
優しくキスをされる。最初は触れるだけで、だんだん深く。とろけるようなキスに夢中になっていたら、体が浮くのを感じて、気が付いたら布団の上だった。
「い、ちまる…っ」
背中が布団に触れることで急に現実味が沸いてきて、とっさに市丸の名前をよんだ。服の袖を掴む。
「本当にええの?怖ない?」
「大丈夫。ちょっと怖い、けど…」
「無理せんといて?僕は日番谷はんにおめでとうって言うてもらえるだけで幸せなんよ」
「大丈夫だ。…お前がすき、だから」
「もう…」
市丸は困ったように、けれども嬉しそうに微笑んだ。そんな表情の市丸を、すごくすごく愛しく感じた。
「誕生日、おめでとう…」
日番谷は市丸の細い首に手を回し、少しだけ起き上がって唇に触れた。日番谷からした、初めてのキスだった。
恥ずかしさからぎゅっと瞑っていた目を開けると、目の前には柄にもなく顔を赤くした市丸がいた。唇に手の甲を当てて視線を泳がせている。
「お、おおきに…。ってちょお、あんま見んといてっ」
「市丸、かわいい…」
「かわいい!?ちゃうって、それ僕の台詞やんか」
「だってお前顔真っ赤…」
「そういう日番谷はんもやろっ!耳まで赤いで」
「お、俺は…」
「かわええー」
目が合ったそこから、くすくす笑いが込み上げてきた。二人して真っ赤な顔で、布団の上で笑い合った。
ああ、本当に愛しい。
市丸のこと、好きになれて良かった。
市丸に出会えて良かった。
市丸が、生まれてきてくれて本当に良かった。
誕生日、おめでとう。
誕生日、ありがとう。
生まれてきてくれて、ありがとう
End
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市丸さんおめでとうー!
一時はどうなることかと思ったけど、間に合って良かったですv
ヒツからのお誘い、どうやら私は好きみたい。前にもこんなの書いた気が…。
ていうか市丸さんヘタレっ子(笑)ヘタレというか受け受けしい。
赤くなる攻め大好きです!!
それとヒツに『俺がプレゼント』とか臭い台詞言わせてすみません、やってみたかったんです。
それでは最後にもう一度、
お誕生日おめでとうー!!