外には雲一つない青空が広がっているというのに、俺たち死神は狭苦しい執務室に箱詰めにされている。前期の決算報告の締切りが明日に迫っているのだ、おちおち休憩もしていられない。

情報をまとめるために席官を総動員しているそんな中、何故か市丸は十番隊にいるのだ。
自分の隊だって締め切りが明日であるのは変わらないはずなのに、なんでこんなにのほほんとしてるんだ。

慌ただしい十番隊で、見ていてむかつくほどに寛いでいる市丸は、暇そうにこちらを見て口を開いた。


「日番谷はーん」

「今忙しい」


本当に忙しくて、顔も上げずに冷たく言葉を放つ。
しかしまったく気にしてない様子で、市丸は更に会話を続けようとしてきた。
俺としては集中を邪魔してほしくないんだが。



「あのさ、ちゅーしてええ?」

「いいわけねえだろ。からかう暇があったらお前も…」

「ボク上手いで?絶対楽しませたる自信ある!」

「馬鹿か。上手いもなにも、ただ唇が触れるだけだろ。キスなんて誰がやっても同じだ」

俺が何の気なしにそう言うと、若干の沈黙が流れた。

「…え?もしかして、ベロちゅー知らん?」

「は?」


仕事に追われているのも忘れて、俺はまんまと市丸の会話に付き合わされていた。初めて聞く単語に、思わず顔をあげてしまう。
…なんだよそれ。


「べろ…ちゅー?」

「あ、ほんまに知らんかってんや。純粋やねんなァ、日番谷はん」

「…だから、何なんだよそれ」

にやけ顔の市丸にムカッときたが、自分の知らないことは知らないと気が済まない質なので、ついつい仕事の手が止まってしまう。


「言うなら早く言え。気になるじゃねぇか」

「あっは、まぁ大人になったら分かるでー」


ぴらっと手を振ってケラケラ笑ってくる市丸にムカついた。子供扱いされるのは嫌いだ。
気付いたら俺は市丸を睨み上げて、馬鹿みたいに突掛かっていた。

「俺はもう十分大人だ!ガキ扱いすんなよっ」

「ふぅん?大人ねえ…ほな、やってみる?」

「いいぜ、かかって来いよ」


俺は深く腰かけていた椅子から立ち上がり、バンと机に手をついて挑戦的に睨み上げた。相変わらず市丸はにやにやしている。


「後で文句言わんといてな。目、つむり」

「上等だ!」


そう言うと、顎をくいっと持ち上げられた。そしてこれから触れるであろう唇を指でなぞられる。
突然のことに肩がぴくっと反応してしまったが、俺は変に意識してしまわないようにギュッと目をつむった。




End


何も知らない日番谷さん萌えv
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