(例えるならば、)
部屋には不機嫌な声が響き渡る。声を荒げているのはこの部屋の主であるギンの弟、冬獅郎だった。
「だーかーら!そこはそうじゃねえって言ってんだろ」
「あ、せやった。ここは掛け算やんな」
「…割り算だ」
部屋の真ん中の丸テーブルでペンを握っているのは年上であるはずのギンで、冬獅郎は脇に座って勉強を教えている。少し手を休めてシャーペンを弄っていると、『真面目にやれ!』とすかさず冬獅郎の怒声が飛ぶ。高いながらも覇気のある怒声は、迫力満点だった。
実の弟に厳しい指導を受けながら、ギンは思うのだった。
何なんやろ、この状況…。
つい一時間ほど前までは立場は逆だったはずだ。
だらだらと漫画を読んでいたギンの部屋に、冬獅郎は宿題を持ってやってきた。律義にノックをして入るのは、きちんと躾が行き届いている証拠だ。兄として誇らしい。
「兄貴、ここ教えて欲しいんだけど今時間あるか?」
「うん、暇やで?」
可愛い弟から頼られるのが何よりの楽しみであるギンは、嬉々として漫画を閉じ、急いで机の上を片付けた。
表紙に『夏休みの課題』と書かれた冊子を開き、最初の一問を教えていたところまでは良かった。
しかしその後、ギンが間違える度に冬獅郎に訂正され、だんだん雲行きが怪しくなってきた。ちょっとしたミスを何度も何度も重ねていって、遂には問題自体を冬獅郎から教えてもらう始末。
自分も昔は頭が良かったはずなのに、少しさぼっている間にほぼ記憶は抜け落ちてしまっていた。中学生の弟の宿題が解けないとは情けない…。
「おい兄貴、聞いてんのか?」
「え、あ…そろそろ休憩せぇへん?」
「…まぁ、仕方ねえな」
「やった〜!」
冬獅郎のお許しがでて、ギンはうーっんと伸びをする。勢いでそのまま後ろに倒れるように寝転がった。
腕を思い切り伸ばしたせいで、シャツは引っ張りあげられ、程よく筋肉のついた腹が少しだけ見えた。本人はまったく気にしていない。
そんな様子の兄を見ながら、おもむろに冬獅郎は口を開いた。
「兄貴っていいよな、」
「え、なに?どしたん」
思わず指が兄の腹に伸びる。無意識だった。なでるように触れて更に、その筋肉の自分との違いを思い知った。うらやましいと思う。
そんな冬獅郎にギンは驚いた様子だったが、起き上がりはせず、目線だけを冬獅郎に寄越した。
「兄貴は身長も高えしさ、筋肉もあって……かっこいい」
「え…え?何、かっこいい?」
まさか冬獅郎からそんなお褒めの言葉が出るとは思わず、ギンは動揺を隠しきれなかった。
「俺なんか中学生になってもこの身長だしさ、…兄貴みたいになりてぇな」
たった3歳違うだけで、自分よりも50cmも高い兄がうらやましくてしょうがなかった。こんな身長になれたら…と何度夢見たことか。
「なぁ冬獅郎?」
「…何」
「冬獅郎はそのままでええと思うで?身長なんかこれからいくらでも伸びるし、冬獅郎は勉強も出来て、かっこいいやんか」
いつの間にか起き上がっているギンに頭を撫でられる。子供扱いされるのは苦手だが、不思議と嫌な感じはしなかった。ギンはすごく優しい笑みを浮かべていた。
「ボクはそのままの冬獅郎が一番好きやで」
「な、何恥ずかしいこと言ってんだよ!」
まるで恋人に言う愛の言葉かのようなそれに、冬獅郎の頬は少しだけ熱くなる。
兄貴のやつ、よくこんな寒いセリフ言えるよな…。
「それになぁ、ええこと教えたる!今はちっちゃい男の時代なんよ!現に兄ちゃん彼女出来ひんし…」
「自分がモテないのを身長のせいにするな!ってか彼女いねえのかよ」
「もうかれこれ一年…って冬獅郎には関係あらへんやん!」
「自分が勝手に喋りだしたんだろが!」
馬鹿!お前のほうが馬鹿!と、何とも幼稚なやりとりをする。次第に二人の声は大きくなり、ついにはギャンギャン叫び出す始末。
仲がいいのか悪いのか…。
お互いに尊敬し合って、いい所も悪いところもきちんと理解している。何も喋らなくても以心伝心できる。何よりも、お互いの笑顔が大好きである。
こんな二人の関係を例えるならば、
一緒に悪ふざけをする親友のような、
無償で愛を注ぎ合う親子のような、
はたまた長年連れ添った夫婦のような。
そんな、良好な兄弟関係。
END
ふぅー。
弘毅さまー!!大っ変お待たせしましたm(_ _)m
まじですみません!!!
『兄弟パロで、ギンに勉強を聞きに行ったヒツが逆に教える感じの甘ギャグ』というリクエストを頂きました!(覚えてないかも知れませんが;)
しかも今リク見直したら試験前って書いてあった…orz
すいません勝手に夏休みネタにしちゃいました!!
こんなので良かったら受け取って下さいませ〜
書き直しはいつでも受け付けております!!
フリリクありがとうございました!!
2009.8.12