(君に教えること)




真っ白い壁におしゃれな門、庭にはたくさんの色とりどりの花が咲いている。どどん、とかなり広めの一軒家だ。
そんな家のインターホンを市丸は人差し指を立てて恐る恐る鳴らした。


―――ピンポーン


高いチャイムの音が響く。しばらくして中から鍵が開けられる音がして、銀髪の少年が出てきた。


「こんにちは。あの…日番谷冬獅郎くんはおる?市丸ギンっちゅーもんやけど」


そう尋ねてみると、少年は眉に皺をよせ怪訝そうな顔をして答えた。


「俺だけど…」

「えっ、君?」

「悪いのかよ…」


拍子抜け。まず頭に浮かんだのはその言葉だった。冬獅郎くんは中学3年生って聞いてたし、まさかこんな小さいだなんて…。どう見ても中学生どころか、小学生だ。


「…小学生みたいで悪かったな。顔に出てんだよお前」

「え、あ、ごめんな!でも別に小さいのもかわええ思うし、気にせんでええ!」

「……何のフォローにもなってねえよ。つーか。そんなとこに立ってないで、上がれば?」


言葉とともに、冬獅郎はピッとあげた右の親指で自分の後ろを指した。



冬獅郎に案内され、入った部屋は広かった。大学生の少ない稼ぎで住んでいる家賃三万のアパートとは大違いだ。二階の南向きに面しているそこは日当たりも良く、環境としては申し分ない。

壁によせたところに机があり、そのすぐ隣りにはベッドがある。どちらもシンプルなデザインで、部屋全体がきちんと片付けられている。その他の目を引くものと言えば、几帳面に並べてしまってある大量の書物だけだ。
読書が好きなのだろうか、小説やら難しそうな論記やら、幅広いジャンルの本が並んでいる。


部屋内を一通り眺めたあと、市丸はいかにも寝心地の良さそうなふかふかのベッドに腰掛け口を開いた。


「もうお母さんに聞いて分かっとるやろうけど、今日から君の家庭教師することになった、市丸ギンいいます。よろしゅう」


にこりとご自慢の笑みを浮かべて、右手を差し出した。









「じゃあ俺寝るから。そこにある本好きに読んでいーし、腹減ったら勝手になんか食ってて」

「うんわかった、…ってちょお待ち!」

「あんだよ?」

「何のために来たと思っとるん?ボク家庭教師やで?勉強すんの、ほら!」


おもむろに手にとった彼の参考書を開いてみて唖然とする。たまたまその開いたページだけかと思って最後までパラパラめくってみるが……、どのページも終わってる……?


「え、これ大学入試…」

「ふぁ、もう良いだろ。教わる事なんかねえよ」


冬獅郎は大きくあくびをして、ベッドに沈んだ。
手にとった参考書の表紙を見ると、市丸が通っている大学の赤本だった。結構有名な大学で、市丸自身、入るのにはかなり苦労していた。

冬獅郎が頭がいいということは聞いていたが、事前に受け取っていた評定を見るとずば抜けて良いというわけでもなく…。
不思議に思っていると、心を読んだかのようなタイミングで冬獅郎が言った。


「関心意欲がないんだと」


彼曰く、授業はサボってばかりで、受けたとしても寝ていることが大半で、極めつけには提出物も出していないそうな。
そこまでわかっているんだったらもう少しちゃんとすれば良さそうなものを…。


「なして?君、そないな不良には見えへんけどなぁ」

「反抗だよ、ちょっとした。期待の視線にはもう疲れた」


こちらに背を向けて寝転がっているから、冬獅郎の表情は見えなかった。恐らく無表情なのだろう。


「お前だって俺の監視のために雇われたんだよ。家庭教師じゃなくて、ただのおもり」


そう、言われた。家庭教師のアルバイトをはじめて、二人目の生徒だった。

周りから期待され、監視され、過剰なプレッシャーをかけられる。誰も自分自身をみてくれない。見ているのは、成績。ほしいのは、将来有望な出来た『頭』。

未だ背を向けたままのこの少年に、少しだけ(いや、かなりかもしれない)親近感を覚えた。市丸もその昔、期待の目に押しつぶされそうになった経験があるからだ。


「決めた。君に教えられること、見つけたで」

「え?」

「人との付き合い方について、叩き込んだる!」


プレッシャーをうまくかわす方法、適当にその場をしのぐ方法、人生を楽しむ方法。己の経験から学んだことを、この少年に教え込もう。人と関わって、心を開いて、心の底から楽しいと思えたときの、ハッとするだろう、綺麗な笑顔が見たいから。


「冬獅郎くん、まず、何言われても笑っとったらええんやで!」

「は?何言ってんだよお前」


やっと顔を向けて、起き上がってくれた。少しは興味を引けたのだろうか。

「お前本気でそんなこと、教える気?」

「もちろん。人生の先輩やからな。何でも聞いてやー」

「ったく、お気楽な頭」

「おおきに、褒め言葉として受けとるわ」


こうして市丸と冬獅郎の、普通とは少し違った家庭教師と生徒の関係が始まった。





飲み込みの早い生徒が学校の友達の話ばかりしだして、先生であり先輩である市丸が少しばかり寂しい思いをするのは、また別の話。




END


ちゃきさん、お待たせしました!相互記念の家庭教師パロです。
……って、活かしきれなくてごめんなさいー。
ほんとは性教育ーvなんて考えましたが、はずかし過ぎて無理でした!m(_ _)m


ほんとに相互ありがとうございました!!これからも末永くよろしくお願いします(*^_^*)

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