(恐怖の撮影会)



春眠暁を覚えず、とはよく言ったもので。春の気候はなかなか眠たい。
こんな季節だから、己の副官もどうせまた寝坊して来るんだろうと高を括っていた。それが間違いだった。

俺としたことが、油断していたんだ。




朝一番に出勤して隊主室、執務室などの鍵を開けてまわる。それがいつもの日課。
今日もいつも通りにそうするつもりだった。
執務室の扉の前に立ち、鍵を差し込んでカチャリと回す。そして戸を開け中に入ろうとしたとき、事件は起こったのだ。


「隊長っ!すみません!!」

「シロちゃん、ちょっと我慢してねっ」


「ッ!!!?」


部屋に入った途端、待ち伏せをしていたのか松本、雛森が襲いかかってきた。

鬼道の達人である雛森に縛道をかけられる。そこに松本が、ここぞとばかりに錠のようなもので手足拘束してきて。


「ちょ…てめ、ら!!」

「女性死神協会のために犠牲になって頂きますっ!」

「こんなことしてタダで済むと…」

「シロちゃんは少し黙っててっ」

「…っ」


雛森に、手ぬぐいで口と鼻を覆われる。たぶん染み込ませた睡眠薬でも嗅がされたんだろう。


まったく、こんなものどこから手に入れてきたんだ……。


俺は遠のいていく意識の中、意外と冷静に疑問をぶつけていた。



「………んっ、」


周りのうるさい音に、俺の意識は少しずつ現実へ戻ってきた。不自由な手足でゆっくり身動ぎ、僅かに呻きをあげる。


「きゃー!!隊長いいわッ」

「乱菊さん、もう少し胸元はだけさせて貰えますか?」

「こう?」

「そうですそうです!いい感じです〜」




おいおいおい………!!!!




目を開けると、異様な光景だった。雛森は目の前でカメラを構えてパシャパシャやってやがるし、松本は松本で小物を片手にくるくる動き回っている。



「てめえら…何のつもりだ…」



徐々に覚醒してきた頭で今の状況を分析する。
俺は手足を縛られ、何故かこの二人に写真を撮られている。眠らされる直前の言葉からするに、女性死神協会の資金集めか何かが目的だろう。


「あ、隊長起きました?」

「起きました、じゃねえよ!何やってんだ!?」

「何って……撮影会?」

「ふざけんじゃねえぞテメーら!!……ッ?」


霊圧が。
上がらない…。


「無駄よ、シロちゃん。それ殺気石だもん」

「何…だと?」

「もうあきらめたほうがいいよ。女性死神協会のために、ね?」

「隊長、あきらめましょう?写真くらいでケチケチ言わないで下さいっ」


徐々に距離を詰めてくる馴染みの二人。
そのほほ笑みが恐ろしい…。


「ちょ…おい、松本!…雛森!?」

『ふふふふ……覚悟して(下さい)ね…』

「ひぃぃぃぃ!!!!」



ガラガラッ


ピシャーン!!


「日番谷はんッッ!!」

「市丸!!」


扉が勢いよく開かれると同時に、最愛の恋人市丸の声が響き渡った。
焦って走って来たであろう、息が乱れている。


「ボクの…日番谷はんに、何してくれとんねん!!!」

霊圧をガンガン上げて女性死神二人組を威嚇している市丸。
そんな奴の様子を見て、俺は

良かった……これで助かる……!!

甘くもそう思ってしまっていた。

ガンガン上がる霊圧とは対照に、松本と雛森の二人はまったく動じていない。それどころか黒い笑みを一層深くしたのだ。


「はよ日番谷はんを解放し!その写真も処分せな許さへんで…?」


開眼した市丸はなかなかの迫力だ。
それでもなお平然としているこの二人は、市丸に向かいおなだめ口調でしっとり話し始めた。


「ねえギン?」

「何や…?」


話しかけられた方の市丸は、松本の不思議なほど穏やかな口調に訝しげな表情を浮かべつつ返事をした。


「あんた隊長のあ〜んな姿やこ〜んな姿見たくないの?」

「な…何やて?」

「あっちの奥に服があるのが見える?あれ、コスプレグッズなのよ。もちろん隊長に着せるためのね…」

「ちょ!俺はそんな話聞いてないぞッ!!」


縛られた手足なりに一生懸命暴れたが、まったくと言っていいほど意味を成さなかった。
松本はいっそう怪しい笑みを深くし、市丸をどんどん言いくるめようとする。


正直言って……女って恐い。


「もし撮影に協力してくれたら、メイドな隊長やナースな隊長、バニーガールの隊長なんかが見れるのよ?見たくないわけ?」

「そ、それは…見たい」

「でしょ?それじゃあ決まりね!さぁ先ずは猫耳からいこうかしら?」


松本が猫耳を手に近寄って来る。雛森は今まで見たこともないようなニヤつき顔でカメラを構えている。
そして市丸はと言うと、部屋の隅でしきりに鼻を押さえている。


あんなところで何やってんだ………?
そんな暇があるなら助けろよ!!


だがいくら祈ろうが無駄。市丸は既に女性死神に荷担する約束をしてしまっていた。俺の声はあいつに届くことはない。


あとで覚えとけよこの裏切り者……ッ!!





俺は手足の自由も霊圧も奪われ、思ったように抵抗出来ずにいた。
実際今だって俺の意思とは関係なく、白のふわふわした猫耳とやらをつけられている。
俺に出来ることと言えば、三人の馬鹿どもを精一杯睨み付けることだけだ。


再度近付いてきた松本に、減給にしてやる、という念も込めてギロリと睨んでやると…。


「やだ隊長っ、そんな上目遣いしないで下さい。照れます!」

「睨んでんだ!!!」

その後も俺の抵抗虚しく撮影会は続行された。


「乱菊さん、そろそろアレやりましょうか」

「分かったわ雛森!たいちょう、ちょっと我慢して下さいね〜っ」

「え、ちょ…おい!アレって何だよ!?馬鹿こら、脱がすなぁっ!!」


袋とじ用、とか言って俺は松本の手によって死覇装を脱がされた。いや、脱がされかけた。
俺の抵抗の成果も少しはあったようで。肩はさらけ出て帯もゆるんで袴が今にも落ちそうだが、何とか脱がされずには済んでいる。


俺がこんなことを考えている間にも、パシャパシャとシャッター音は響いていて。


「隊長、もうちょっとこっちに目線下さ〜い」

「………(ギロ)」

「いいよ〜シロちゃんその感じ」

「これはまた完売間違いなしだわね!」

「ですねですねっ」

「………はぁ、」


どうしたら良いんだこの二人組は…。
もう呆れるしかない。
怒りはとうの昔に諦めに変わっていた。
この礼は、解放されたときにでもまとめて返してやるさ…。








「ひ、日番谷はん…」


「あ゙?」


隅の方にいた市丸が寄ってきた。
今までやけに静かだと思ったらそういう事だったのか…。


立ち上がりふらふらと寄ってきた市丸の手は自身の鼻。ぼたぼた落ちる血を必死で止めていたようだ。



「日番谷はん…」

「…助けに来てくれたとき、ちょっと見直したんだぜ?それなのにお前ってやつは…!」


情けなーく鼻血なんか垂らしやがって!
しかも恋人が脱がされてんのに止めねえってどういう事だよ!!





「………のに、」

「え?」

「こんな格好、お前以外に見せたくねえのに…っ!!」

「!?」


気付いたら自棄になって、つい余計な事をしゃべってしまっていた。
言った後に市丸のキョトン顔を見てはたと気付いた。

「〜〜っ!!」

何恥ずかしい事言ってんだ俺の馬鹿!!
こんな格好って何だよ!男だったら上半身くらいどーってことねえだろ…?




「……………………や、やっぱ今のナシ」



「ナシって何や!そない可愛え言葉、ナシには出来んで!」

「嫌だっ!ただの言い間違いだ!本当はそんなこと思ってねえからっ」

「嘘つかんでええっ」

「嘘じゃねえ!」


ああ…なぜこんなに顔が熱いのだろう。
ああ…なぜこんなに俺は叫んでいるのだろう。
ああ…なぜこの瞬間にもシャッター音が聞こえるのだろ…………


「雛森ィィッ!!撮ってんじゃねえよ!松本も止めろ!」

「だって真っ赤な隊長可愛いんですもーん」

「…うるさいッ!てめえら全員凍らしてやる!霜天に坐…」



「「いやぁぁぁ!!」」




いつの間にやら腕、足、霊圧を解放された日番谷くんに、おバカ三人組は凍らされてしまいました。

そして写真集はと言えば、日番谷が必死で止めたので出版中止に……………、なるはずもありませんでした。



女性死神協会の権力はすごいのです。


チャンチャン♪






End
**********
うわー

内容は詳しく指定いただいていたので書きやすかったのですが。ギャグ風味とのことで、馬鹿っぽく馬鹿っぽく…って書いてたら最後がとんでもない事にorz

眠玖様、お待たせした挙げ句こんなんですみません;;

メイド服とか、その他もろもろ。いっぱいコスプレさせたかったのですが、手足拘束されてんのにどうやって着替えるよ…?
という何とも現実的な問題に直面しまして、ただのセミヌード(死覇装はだけ)になってしまいました。
コスプレ…(あきらめ切れない)

まぁそれは時間があるときにでも再チャレンジしたいと思います。(有言不実行なので期待なさらずに)


そして眠玖様大変お待たせしました!
リクエストありがとうございます(^-^)



2009.4.19
新菜
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -