(星空の約束)
「綺麗やなぁ…。」
「ああ…。」
キンと澄んだ夜空に、キラキラ瞬く億千の星たち。
現世の、街からちょっと離れた丘のてっぺんで。
俺たちは地面に腰を下ろしてそれを眺めている。
空一面星に覆われていて、ぼぅと眺めていると吸い込まれてしまいそうだ。
あまりに綺麗で、柄にもなく二人で見とれ、ほぅと長い息を吐いた。
「なぁ冬…?」
「なんだ…」
空を見上げたまま話しかける市丸に、俺もまた星から目を離さずに答える。
「また来よな…?」
「ああ…」
「来年も…再来年も、毎年な…?」
「そうだな…」
満天の夜空の下、俺たちは約束を交わした。
毎年この日に星を見に来るという、簡単な約束。
その頃の俺たちにとっては、だ。
その頃の俺たちはまだ、二人が離れる事なんか無いと思ってたから…。
あの年から何年も。
しとしと雨が降っていた日も、夜遅くまで執務が続いて張り詰めていた日も。
決まって二人でこの場所を訪れた。
雨雲で星なんか見えるはずもなかったけど…、執務が終わらなくて総隊長にこっぴどく叱られたけど…。
二人で出かけるその時間がすごく幸せだったんだ。
今年もその約束の日がやって来た。
夜着の上から羽織をはおり、現世へと降りる俺。
例の丘に足が向かう。
市丸がいないのは解っているが…。
あいつの事を未だに想ってる俺がいる。
藍染の反乱から数ヶ月経った今も、市丸が離れて行ったという実感が湧かない。
そりゃ会う事は無くなったし、声も聞けないし触れられないが…。
それでも何故か、心は離れてない気がするんだ。
おかしいよな…。
そんな淡い想いを抱いていたからか、丘に着いたときに見た先客にも、さして驚かなかった。
「市丸…」
後ろに手をついて座り、夜空を仰いでいる市丸。
俺の声に反応して振り返る。
「あァ冬、久しぶりやな」
見慣れない白い服を着ているが、容姿は前とさほど変わってない。
「ああ、五ヵ月ぶり…か?」
「せやね。寂しい?」
「ほざけ。仕事がはかどって仕方ないぜ」
『寂しい?』あくまで現在形。戻って来るつもりはねえって事か…。
「お前、こんな所にいて大丈夫なのか?」
「うーん、どうやろ?あかんかもなぁ…」
少し首をかしげながらも、相変わらずの笑顔。
つくづく呆れるぜ…。
「ったく…。あっちで裏切り者扱いされても知らねえぞ」
「やって、冬との約束やもん」
破れるわけないやろ?
微笑みながら、さも当たり前かの様に答える市丸。
地面をぽん、と叩き合図してくる市丸の隣りに静かに腰を下ろす。
「言うたやろ?ボクの中心は冬や、て」
今まで何度も聞かされていた言葉。
そうだ、忘れてた…。
市丸が行動を起こす時は、必ずと言って良いほど俺が関わってるんだ。
俺のために笑って、俺のために怒る。
俺がいなきゃ何も出来ねえんじゃねえかってくらい、どうしようも無い奴。
本人はそれを知らない。
『ボクの中心は冬や』とか言ってやがるが、その言葉の本当の意味を、あいつは知らない。
文字通り俺は、自意識過剰なんかでは無く…、あいつの中心にいるんだ。
その時ふと疑問が湧いてきた。
もしそうだとしたら、藍染についたのも…俺のためか?
チラリと隣りの市丸を見るが、至って呑気な表情で空を見上げている。
なぜ裏切ったのかなんて、問い詰めるつもりはない。
あいつだって自分なりの考えあっての事だろうし…。
何より本当に俺のためだと分かったら、泣き出してしまいそうだから…。
そんなのカッコ悪いじゃねえか…。
「怪我だけはすんじゃねえぞ…」
理由を問い詰める代わりに、それだけ呟く。
突然沈黙をやぶった俺に、一瞬驚いた顔をしたものの嬉しそうに答える市丸。
「せぇへんよ。ボクにはまだ、冬を守るゆう仕事が残ってんねんから」
穏やかなその表情に、俺はほっと安堵した。
市丸が藍染側についた理由は知らないが、後悔はしてないみたいだ。
俺にはそれが一番。
市丸と堂々と会ったり出来ないのは寂しいが、何にせよ、こうして約束は守ってくれている。
破面側にまで裏切り者にされれば市丸の居場所はないだろう。
それでも、その危険を冒してまで俺に会いに来てくれる。
その事実だけで俺は十分幸せだ。
「綺麗だな…」
「せやね」
約束を交わしたあの日の空。そんな風に今日の夜空も輝いている。
「来年も、絶対来ような…?」
「うん」
「その次の年も、また次の年も…」
「分かっとる…」
星を見上げてた俺の視界に、さっと銀髪が舞い込んだ。
それと同時に塞がれる唇。
目を閉じて懐かしく想う、市丸の感触。
五ヵ月ぶりのキスの味。
夜空にきらっと星が流れた。
俺の目端からは、しっとりと。
一筋の水滴がこぼれた気がした。
End
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冬藤はるか様よりリクエスト頂きました『市丸離反後で密会。甘』
撃沈…。
なんか切ない感じになってしまいましたι
しかもこれは密会って言うのか…?
いろいろ駄目なところばかりですが、貰って頂けると嬉しいです。
お待たせした上にこんなのですみませんι
ありがとうございました!
2009.1.25
新菜