春というにはもう遅くて。夏というには早すぎる。
そんな季節。



その日俺は目覚めの悪い朝を迎えた。いや、寝付きも悪かったのだから当然と言えば当然なのだが。


爽やかな風の中、起き上がりたくない気持ちを抑えつけ、俺は渋々死覇装に着替え始めた。その間だけでも三回は溜め息がもれたように思う。



着替えてからも部屋から出ることに戸惑いを感じる。出来ることならさぼりてえよ……。



ふと戸の外の景色を見上げると、俺の気も知らないで、空は青々と澄んでいる。一点の曇りもない青空に俺はまた溜め息。
本日通算八回目。


憂鬱だ……。




一年のうち、これほど嫌いな日は他にない。
毎年この日が近付いて来ると気付いてるようで気付かないフリ。
頭を振って意識を隅に追いやるんだ。


サボることが出来るのなら、俺は迷わずそうしただろう。恥やプライドなんて、これから味わう屈辱に比べればなんてはことない。


だがここは一端の隊長。大勢の隊員前に、逃げ出すわけにはいかないのだ。






俺の一番触れて欲しくない部分……。



『身長』についてこんなにも核心をついてくるこの日が大嫌いだ。








とぼとぼ、という表現が一番似合う歩き方。普段の凛とした空気は何処へやら…。
俺は思い切り肩を落として歩いていた。








「日番谷隊長、どうぞ中にお入り下さい」



扉の前で溜め息をつきながら佇んでいる俺を見兼ねて、中から卯ノ花隊長の声がかけられた。
優しげだが有無を言わさぬ雰囲気がある。




「はい………」


俺は嫌々ながら部屋に足を踏み入れた。
悪夢の身体測定の会場へ。




中に入ると身長、体重、座高、視力などに別れていて…。
俺がぽつんと立っていると、せかせかと四番隊員に通された。よりによって一番嫌な身長の場に。




「はい、日番谷隊長こちらに乗って下さい。足袋は脱いで」

「……………絶対か?」

「何言ってらっしゃるんですか。ほら」


渋ってなかなか計測器に乗ろうとしない俺を、半ば強引に引き寄せて背をあてがう。布越しに背に当たる金属が、俺を嘲笑うかのようにひやっとしていた。

周りはざわざわとたくさんの死神たちで溢れ返っている。そんな中で誰もこちらを見ていないとは解っていても…。

コンプレックスというものはどうしても気になるもので。
少しばかり羞恥で赤くなりながらも、「早く済んでしまえ!」と強く思っていた。





少しでも背を高く見せようと立ちあげた髪を、担当の死神は無情にもぺたんこに押さえ付けた。

150cmくらいに置かれていた押さえがすーっと頭の上まで降りて来る。
そして俺の髪を押さえ付け頭部に達したとき、頭上から声が発せられた。


「えーっと、133.0ですね。もう良いですよー」



え……?



「日番谷隊長?もう結構ですよ?」



え……………?



「次は隣りの体重の場所に移動して下さい…?」



ええぇぇぇ?!




「ちょ…待て!!133!?」

「ええ、ちょうど133cmですが…」


いやいや。そんなはず無いだろう?
有り得ねえよ…。こんなに毎日牛乳を飲んで、早寝早起きしてんのにそれは。


「……測り間違いだろ!!頼むもう一度…っ」

「困りますよ…たくさん並んでるんですから」

「それは承知で頼む!絶対測り間違いなんだっ!ゼロってことは……」



また今年もゼロなんてことが信じられるはずがない…。
計測ミスに決まってるんだ、絶対。




「この通りだ、頼む」

「…顔あげて下さい。…………一回だけですよ?」

「ありがとなッ!」


根気負けしてくれたその隊員は、一回だけ測り直してくれることに。
今考えると、こんなことでムキになっていたということが少し恥ずかしい気がするが、俺には重要なことだったんだ。









**********



「市丸!いちまるーッ!」

「冬?どないしたん?」



身長を測ったあと、どうやってここまで来たのかは覚えていない。
気がついたら市丸の霊圧目掛けて走り出していて。
体が勝手に動いていた。


「市丸っ!伸びた!俺身長伸びた!!」

「えっほんま?良かったなぁ!何センチ伸びたん?」


「1ミリ」


嬉しさのあまり、普段ならば絶対有り得ない、自分から市丸に抱き着くという行為をしてしまった。
少し周りを見渡して、咳払いを一つしてから体を離す。


「やっと伸びたんだ!去年はまったくこれっぽっちも伸びなかったのにだぜ?俺、とうとう成長期が来たのかも!」

「いや……おおげさちゃう?」


控え目にツッコむ市丸をギロリと一睨み。
小さいながらにかなりの迫力だ。


「…ところでお前は伸びたのか?どーせ伸びてんだろうな、」

「んー?2伸びたよ…」

「………2ミリか?」

「ー、2センチ…」

「…………」


無言。沈黙。
一応気を遣って言葉を濁してみたのだが…。
どうやら無駄だったようだ。


「ちょそんな怒らんといてや!」

「怒ってねえよ。俺は今上機嫌だ」

「嘘や〜〜ん」

「嘘じゃねえよ…」


バキ、


「!!いくら伸びひんからって八つ当たりは止めえな!」

「伸びない言うなぁぁぁあ!!」









+++End+++


自分が身体測定嫌いなんで、ひつにも憂鬱になってもらいました(笑)

最初は縮んだ設定にしようという何とも酷な考えだったんです←
でも自分が、縮んだときのショックを経験しましたから…。ひつだと尚更だと思って止めました。
私って優しい!(おい


とまぁぐだぐだな文でしたが、読んで下さってありがとうございます(^-^)




2009.5.3
新菜
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -