Patience



※日番谷誕生日祝い
※パロ





12月20日、この日を二人は市丸の私室で過ごしていた。冬獅郎が生まれて通算18回目のこの日は、二人にとって大きな意味を持つ日になる。



市丸と冬獅郎がいわゆる恋人同士という関係になったのは二年前のことである。ある日、日番谷家の、屋敷ともよべる広い家に仕えることとなった市丸は、そこの子息に恋をした。使用人とその屋敷の者。決して許される恋ではなかったけれど、たくさんの生涯を乗り越えてなんとか実らせたのだった。
恩人である主のかわいがっている息子に手を出したともなれば、死活問題である。市丸は一時は職も辞さぬ覚悟であったのだが、冬獅郎が日番谷家の三男だったこともあって、条件付きではあるが、二人の関係は認められた。
その条件というのが、冬獅郎が18の誕生日を迎えるまでは身体を重ねることはおろか、キスも一切禁ずるということだった。
当時主人は「本気ならば誠意を見せろ」と言っていたが、今考えるとそれは愛息子を男に奪われた父なりの意地悪だったのかもしれない。

とにもかくにも。
年頃の男にとってそれはかなりきびしい条件ではあったが、この禁断の恋愛を認めてもらえるのであれば守る価値は大いにあると、今まで二年間約束を守ってきたのだった。






「誕生日おめでとう」

冬獅郎の生誕パーティーが屋敷内で盛大に行われた後、二人は本邸とは少し離れたところにある使用人用の別邸へ赴いていた。他の使用人たちはパーティーの片づけやら来客の見送りなどで出払っており、ここには市丸と残り数人のメイドだけである。それに一人一人の部屋はそれなりに離れているため私室に入れば完全なプライベート空間だ。


「…ありがと」

一日の間に数えきれないほど聞いたおめでとうの中でも、愛する恋人からのものは一際暖かく胸に響く。やっと喧騒の中から解放されて市丸の声を聞くとほっとした。


「冬獅郎も18歳になったんやなぁ」

「ん、…待たせたな」

「これでやっとキスもセックスも出来るんやね」

「な…っ!もうちょっとオブラートに包めないのかよ!」

「ええやないか事実やし」

市丸がわざと露骨な表現を使い、冬獅郎の反応を楽しんでいることは承知済みであるが、わかっていても反応をしてしまう。
それをクスクスと笑っている彼に非難の声をあげた。

「あんまりからかうなよ…」

「うん、ごめんな冬獅郎」

優しくなだめるように体を抱き寄せられる。ドキッと心臓が鳴った。
市丸に名前を呼ばれるとたまらない。普段は雇い主や他の使用人の手前、「坊っちゃま」とか「冬獅郎様」とか呼ぶくせに、二人きりになると途端に甘い声で呼び捨てにされる。それがいつまで経っても慣れなくて、ドキドキして、どうしようもなく愛しくなってしまう。


「冬獅郎…」


それを知ってか知らずか甘く低く囁かれる。


「キスするで?」

「…っ!!」

顎をくいっと持ち上げられて目を覗き込まれる。
市丸の唇から紡がれた言葉は『キスしよ』でも『キスしてええ?』でもなく「キスするで?」で。誘っているわけでも許可を求めているわけでもなく、ただの宣言。返事を必要としていないなら、いっそ何も言わずにしてほしかった。何も言わずにされたら、それはそれで心構えが出来なくて頭が爆発するんだろうけど。

市丸の顔が近づいてくる様子を逐一意識して心臓が破裂しそうになってくる。
近すぎて視界かぼやけてくると、もう耐えられなくなってぎゅうっと目を閉じた。

唇にやわらかく湿った感触がして、これがキスかと思う間もなく離れていった。
市丸の気配が少し離れたのを感じてぎゅっと閉じていた目をゆっくりと解く。ばちっと目があった。


「どう?」

「ど、どうって…」

二年間我慢した末の初めてのキス。一言で言えばドキドキした。
市丸の顔がすごく近くにあって、唇に柔らかい感触がした。たったそれだけのこと。なのにこんなにも心臓が鳴るのはどうしてだろう。

「ボクはめっちゃドキドキしとる。冬獅郎のこと大好きでたまらへんから、二年も我慢するの正直キツかったで」

「市丸…」

「今度はもっと激しくしてもええ?あれだけや全然足らん」

「…ん、」

黙ってこくりと頷くと、すっかり余裕をなくしたような性急な口づけに捕らえられる。

キスくらい、約束を守らなかったとしてもバレるわけではないのに。律儀に父の言いつけを守って、二年もの間自分を想って我慢してくれていた。大切に大切に想ってくれていることが重なった唇から流れ込んでくる。

「ん、んう…っ」

「ふ……っ」

激しいキスは甘い苦しみを帯びていて。息ができずに市丸の胸を叩いた。


「ふふ、息のしかたわからへんねや」

「し、仕方ないだろ!初めてなんだから…」

「せやね、これからいっぱい覚えていこ」

自分だって余裕なんかないくせに、市丸は甘く微笑むとちゅっちゅっと頬やら額やらに軽いキスを落とした。あまりにたくさんするものだから、くすぐったくなってくる。

「なんだよ、くすぐってえ…」

「ふふ…ボク、今幸せやなぁと思て」

冬獅郎の誕生日にボクが幸せゆうんも変な話やけど、とへにゃっとした笑顔を見せた。
そんな市丸を見ているとほかほか温かい気分になってくる。



「俺も…幸せ」

小さく呟いたその言葉が市丸に届いたかどうかはわからないけれど、よりいっそう温かい笑みで抱きしめるための腕を伸ばしてきたから、きっと伝わったのだろう。





End
――――――――――


日番谷くんお誕生日おめでとうございます!
お祝い文をこんなパロディにしてしまってすみません!しかも設定を生かしきれてない…
でもお誕生日に解禁という話をどうしても書きたかったんです。楽しかった!

もちろんはじめてのキスの後は初えっちの流れになるんでしょうね!ふふふ


ではでは読んでくださってありがとうございました!
日番谷くんおめでとううううう

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