溶ける海の色は





潮でべたつく風を肌に感じながら、ゆらゆらと揺れる水面を睨みつける。
慣れない船の揺れも空が無駄に青々としているのも、何もかもが気に入らなかった。
いっそここから海に飛び込んでしまおうか。そんなことを何度考えたかわからない。



こつこつ、とブーツを鳴らして背後から近づく影がひとつ。す、と近づいて日番谷の肩に手をかける。

「あぁ…こんなとこにおったんか。部屋におらんから探したで」

「…うるせぇ、どこにいようが勝手だろ。つか触んな」

肩に乗った手をバシッと払って渾身の力で睨みつける。

「そないカリカリしなや。一緒の船に乗ってるんやから仲良うしよ」

「うっせぇな。俺は海賊が大嫌いだって言ってんだろ!話しかけんな!」

思いっきり叫んでその場を後にしようと足に力を込めるけれど、動き出す前にぱしっと腕を捕まれた。

「そないなわけにはいかん。キミ、もう三日も何も食べてへんやろ」

「食ってるだろ」

「嘘つき、持ってった食事全部棄てとるやん。こんな細っこい体して…ちゃんと食わなあかんで」

「余計なお世話だ!」

「…キミがよくてもこっちがあかんねん」

海賊の纏う空気がほんの少し厳しいものに変わって、びくりと身体を震わせる。

「ここは海の上や。どんなもんでも食料は貴重やし、ましてやわざわざ作ってもろたもん粗末にすな」

「…っ」

「それにこんなに痩せて…」

「触んなっ!…っうぷ、」

「はっ?大丈夫か?」

大きく喚いた瞬間に腹の奥から胃液が込み上がってきて、口元を押さえながらうずくまる。幸い胃の中は空っぽであるから吐くことはなかった。




「…なんや、船酔いやったら船酔いやてちゃんと言いや」

「…うるさい…」

込み上げる吐き気と戦っている間、市丸はずっと背中をさすってくれていた。
大嫌いな海賊なんかに触られているのは癪だったが、抵抗する気にもなれなかったので勝手にさせていた。
今は船首室のベッドに寝かされている。


「…なあ、キミはなんでそないに海賊を毛嫌いしとるの?そら好かれる存在やないし、中には卑劣な海賊もおるから分からんでもないけどな…」

ベッドの横に腰かけて体調を気遣う素振りを見せながら、市丸は問いかけた。
今までだったら絶対に無視を決め込むか悪態をついていたであろう質問に、勝手に口が開いてぺらぺらと喋り始めてしまう。


「…家族を殺されてるんだ」



「父さんも母さんも姉さんも、村の人もみんな海賊に殺された。建物も大砲で吹き飛ばされて、村は壊滅だった」


海賊はみんな残忍で下劣で最低なやつらだ。火花散る変わり果てた村の様子を思い出すと、今でも体が震えだしそうになる。
その海賊から命からがら逃げおおせて海をさ迷っていたところを海賊に助けられるなんて、なんて皮肉だろう。

「俺は海賊が憎い…っ、母さんと父さんを殺した海賊を俺は絶対に許さねぇ!」


家族を亡くしてから初めてその事実を誰かに話した。そのせいか、今まで塞き止められていたものが一気に溢れ出して、海賊の前で泣きたくなんかないのに涙が止まらなかった。

「、ぅ…っ」

「…そないなことがあったんか、そら辛かったな」

「ぅ、るせ…お前も海賊だろ…っ」

「そらそうやけど。でもキミの家族を殺したような、そないな低俗なやつらと一緒にせんでほしい。ボクらは無闇に人殺しはせぇへんよ」

「ぅ…っ、く」

唇を噛みしめてこらえようとするけれど嗚咽はとまらなくて肩が震える。
それを落ち着かせるように抱き寄せる腕は、たしかに憎くて大嫌いなはずの海賊のもので。嫌悪を感じこそすれ、温かくて懐かしい気持ちになるはずなんて絶対にあるはずがなかったのに。


「…市丸や」

「な、に…」

「ボクの名前。市丸ギンや。キミのことは何て呼んだらええ?」

「…っ、……冬獅郎」

「冬獅郎か、ええ名前やな」

頭をぐるぐると撫でながらにこりと笑うその表情。
こんなやつ大嫌いなのに。
一刻も早くこんな船降りてやろうと思っていたのに。


こんなにも安心してしまうのは、どうしてなんだろう





End
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お待たせしました!
ずっと前から書きたい書きたいと思っていた海賊ネタです。
少しでも楽しんでいただけましたでしょうか?

市丸船長と海賊嫌いな日番谷くん。もうちょっと日番谷くんの海賊嫌いさを出して暴れさせたかったなとは思ってますが、楽しかったです。
やっぱり海賊はロマンですよね!!

広い海の上で同じ船に乗ってると考えるだけでも胸あつです!


気が向いたら続くかもしれませんのでそのときはよろしくお願いします(笑)

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