これが二人の青い春





「後でジュース持ってくから、先にボクの部屋行っといてなー」
「…おう」


今日誰も居らへんのやけど…うち来ぉへん?
そう言って市丸の家に誘われた。もちろんすぐに行くと答えた。

──誰もいない家に二人きり。

それが恋人同士にはどのような意味を持つのかは、うっすらとわかっているつもりだ。



市丸の部屋の戸を恐る恐る開き、遠慮がちに数歩踏み込む。市丸の匂いが鼻孔をくすぐってどきっとした。
カーペットの床にちょこんと正座をしてみるものの、主のいない部屋というのは落ち着かず、なんとも居心地がわるかった。


そわそわしながらふと彼のベッドに目をやると、枕の辺りに紙切れのようなものが落ちているのを見つけた。なんだろう。
人の部屋を勝手に詮索するようなマネはいけないと分かってはいるものの、それでもやっぱり好奇心には勝てず、ちょっと見るだけ…とベッドの側まで移動して手を伸ばす。




「……え、俺?」
「おまたせー…って、あ!それ」

俺がちょうどそれを手に取ったタイミングで、市丸がジュースとポテチを持って部屋に入ってきた。ビクッと肩が跳ねるのが自分でわかった。


「ごめん、俺、勝手に…」
「………見た?」
「……………あぁ」

ベッドの上に置かれていた紙切れというのは俺の写真で、さらに言うとそれは去年の修学旅行のときに別の友人からふざけて撮られた着替え中のもので。
そのときは確か「お前変態かよ!」とかなんとか言いあって、その場に市丸はいなかったはず…なんだけど。


なんで市丸が持ってるんだ…?


というか妙に年季がはいっているというか、使い込まれた感があるというか。何度も見たような痕跡が残っていて恥ずかしい。


「市丸、これ…」
「いや、その、それは…ボクも男やし!ホンマ、日番谷はんを汚すようで申し訳ないとは思っとったんやけど、でも…」


その写真を手にして首をかしげる俺を見て、市丸は何を思ったか珍しく慌てた様子でしどろもどろに弁明をする。
……どうも噛み合ってない気がするのは気のせいだろうか。


「ふとしたときに最中の顔とか声とか思い出してしもて、あかんねん……ホンマごめん!」
「何の話…」
「で、でもなっ、最後にヤってからもう二か月経つし、男やったら…な?生理現象やん!…わかってくれるやろ?」
「…い、ちま」


かぁっと顔に血が集まってきていて、頬がぽかぽかと熱くなってくる。

ベッド、二か月ぶり、最中の顔、使い込まれた写真、男の生理現象────


これだけ揃えば、そういうことには疎い俺でも、嫌でも察してしまう。


それはつまり、


「おかず……?」
「うわぁぁ!ホンマごめん〜!」


どこかで聞いた言葉を口に出してみると、市丸が本当に泣き出しそうな情けない顔をして謝ってきた。


「いや別に……いい、けど」


顔が熱くて恥ずかしい。カーペットの模様を一つ一つ辿るようにうつむく。
普段そういう一面は全然見せない市丸もやっぱり男なんだと改めて認識して、ドキドキと心臓が鳴った。


「こんなことに使われて、嫌いになった?怒っとる……?」
「怒って、ねぇよ。むしろ…」
「むしろ?」

市丸が、グラビアの雑誌やそういうビデオではなく、他の誰でもない自分の写真で、自分のことを考えて……なんて思うと、恥ずかしいけれど、ほんの少し…嬉しかったりした。


「日番谷はん〜!かわええ〜!!」
「や、てめ、抱きつくな…!」
「なんでそんなかわええこと言うん?反則やわ…そんなん言われたらそれこそボク、我慢利くかわからへん」


市丸はぎゅうっと力を込めて俺を抱き締めると、半ば強引にキスをした。



「あかん、ホンマ、我慢出来そうにないねんけど…」


我慢なんてしなくていいのに、堪えているような表情で言う市丸が愛しくなって、彼の耳元に唇を寄せる。


「…ん…なよ」
「ん?」
「我慢なんて…、すんな。俺だってけっこう…そのつもりで来たんだし、…っ!!」

言い終えるが早いか、俺は市丸によってベッドに押し倒されていた。


「ホンマ、かなわんなぁ…」
「ん、市ま…」


最高潮に赤い顔で見上げた市丸は、すごく、すごくかっこよく見えた。







End
―――――――――
青春!…なのか、どうなのか。
ビバ思春期!って感じを出せてたら嬉しいです。

市丸さんは絶対日番谷さん以外じゃヌけな…(黙れ)



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