そこから始まる恋



(やばい、遅刻する…!!)


今日は日直で、花の水やり係なんてめんどくさい仕事が待っているから、いつもより十分早く学校に着かなければならなかった。
けれど早く起きた日に限ってゆっくりしてしまうわけで。結局うちを出たのはほぼいつもと同じ時間だった。


「あちゃー俺のばか!このままじゃ吉良に迷惑かけちま…ってうわ!!」

もし遅刻するようなことがあれば、もう一人の日直である吉良に迷惑をかけてしまう。吉良は真面目だから笑って許してくれると思うが、それだけは避けなければならない。

などと、色々考えながら走っていると、角から曲がってきた人影に気がつかず派手に衝突してしまった。
身体の小さな自分は反動で吹き飛ばされ、後ろに大きく尻餅をついた。

「痛てて……。ていうか!すみませんこちらの不注意で!大丈夫すか?」

「あーうん、平気やで。それよりキミは大丈夫?」


起き上がってすぐにぶつかった相手に駆け寄ると、黒のカッチリしたスーツを着ている男はにこやかに笑って、俺の荷物を拾ってくれた。
ここら辺ではあまり聞き慣れないイントネーションで言葉を話している。




「キミ、かわええね」

「は?」

「一目ぼれしてもうた」

「え、ちょっ!…んッ!」


いきなり何を言い出すかと思っていたら、男はあごに手をかけてきてもう一方の手はちゃっかり腰に回されて、俺はあっという間に唇を奪われていた。


(ん、ん、んーーーッ!!)


角度を変えて何度も合わせられる唇。
こんな路上の真ん中で何しやがるとか、こっちはこれでもファーストキスなんだぞ、とか。
怒鳴り散らしたい言葉はたくさんあったけれど、息は全て目の前の長身の男に吸い込まれて俺は抗議の声すら上げれない状態だった。


「ぷはっ!」

「うん、ごちそーさま。美味しかったで」

「てめぇッ!!ふざけんないきなり何てことしやがる!」

「あら、キミ早う行かんと大丈夫?急いでるんやないん?」

「あッ!!」


(やばい、遅刻しそうなんだった…!)


この際こんな路上で突然、しかも会ったばかりの奴にキスされたのなんか忘れてやる!
しかも怒りの言葉を完全にスルーされたのもこの際気にしねぇ。

俺はそう自己完結して一刻も速く学校に着くために、全力で走りながら男の横を通り過ぎた。
もう会うこともないだろうし、さっきの出来事なんか思い出したくもねぇ。
出来るだけ顔を見ないようにして、走った。

「あ、行ってまうん?ほなまた後で会おな〜」

「誰が会うかッ!」





「………会うんやなぁ、これが」

ひっそりと男が呟いた言葉を、全速力で駆けて行った日番谷は知る由もなかった。



******


「はーいみんな席に着けー」

とりあえず相当走ったおかげか、時間には間に合って、吉良に迷惑は掛けずにすんだ。

朝のHRが始まる。
だが窓際の一番後ろの席に着いた俺の頭の中は、それどころではなかった。
忘れようと決めたはずなのに、冷静になればなるほど、あの男とのキスの感触がリアルに思い出されて、ひとりで赤くなるのだった。


「お前ら喜べ!今日から教育実習生が来るぞー。じゃあめんどくさいから、アンタとりあえず自己紹介入っちゃいな!」

クラス担任の声なんか頭に入るはずもなく、ぼうっと窓の外を眺めながら聞き流していた。
入って来た教育実習生を見て、クラスの女子たちがキャーキャー騒いでいる声が教室に響く。

「こんにちは、『市丸ギン』いいます。短い期間やけど、よろしゅうな」


(あれ、よろしゅうな…?関西弁…? まさ、か…)



────ガタッ!!



「てめッ!さっきの…!!」

「あァ、さっきはおおきに。またしよな?」

「ふざけんなッ!!」


聞き覚えのある声とイントネーションだと思って顔を見てみれば…。

俺は驚愕して勢いよく椅子から立ち上がってしまった。ガターン!と思い切り倒れた椅子の音と、叫んだ声のせいで、クラス中のみんなから注目されてしまったがそんなことは気にしていられなかった。


「なんでてめーがこんなとこに…!?」

「先生の話はちゃんと聞かなあかんで? 今日から教育実習生や。担当教科は数学。よろしゅうな?」

「もしかして君達知り合い? …じゃあ市丸先生のお世話役は日番谷に決定だな!みんな拍手っ」

「ちょっ!マジで!」


(あ、ありえねぇ……!!)


なんで俺がこんな変態野郎の世話係なんか…!

生まれて始めて本気で人を殴りたいと思った瞬間だった。


End
―――――――

角でぶつかって、恋に落ちる。
少女漫画や乙女ゲーとかでは非常にベタなお約束展開だと思います\(^o^)/


なんか日番谷くんが子供っぽくてすみません…

日直にお花の水やりって、小学生じゃねえかww

というツッコミは受け付けません。せめて中学生です。

その後教育実習生市丸と恋に落ちて、市丸の手でせいつー体験をし(好きだな)、ラブラブ刺激的な学校生活が続くわけですが、研修期間には期限があるので、いつかはお別れが来ちゃうわけです。

二人ともすっかりお互いの虜だったから、めちゃめちゃ切ないお別れになるんですね。
でも何だかんだ市丸は校区内のアパートとかに住んでそうなので、再会して日番谷くんは度々そのアパートに通うようになります。

とか。そんなハッピーエンドv


2010.3.10〜 王道企画四日目

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