(温かな昼下がり)




季節の変わり目は風邪をひきやすい。インフルエンザが流行している事もあって、教室にはぽつりぽつりと空席が目立っている。他学年のクラスでは、学級閉鎖も出ているらしい。

全国ではそのインフルエンザで死者が何人も出ているのだから、侮れないなと市丸は思う。
自分はこれまで罹った事は無いけれど、かなりの高熱が出てとても辛いのだと聞く。もし最愛の日番谷が罹ってしまったらと思うと、たまらなく心配で、ついついお節介を焼いてしまうのだ。


「くしゅっ」

可愛らしいくしゃみを一つ。
ついでずびっと鼻をすする恋人に、市丸は心配そうに声をかけた。

「なぁ、君、風邪なんとちゃう?そんな薄い服着てたらあかんで」
「薄いって…制服だろ。みんな同じもの着てんじゃねぇか」
「せやけどあかん。やって君、セーターも着てへんのやもん」
「テメェが昨日、っくし!」
「ほんま大丈夫?」


今日はとても寒く、朝なんか吐いた息が白くなる程だった。
この季節にこんなに気温が下がるなんて、なんと六年ぶりで、(朝のニュースでチラッと見ただけの情報なんやけど)まだ教室の暖房使用許可がおりていなかった。

だから、いくら昼の暖かい時刻を回っているといっても、セーターもなしに過ごすのはとてもじゃないけど耐えられないはず。
よく見ると日番谷の小さな手はかじかんで、爪が少し紫色に変色していた。


「ほら、これ着とき」
「ちょっ、わ!」
「ボクの着てたやつで悪いんやけど。無いよかマシやろ?」

その場で脱いだまだ体温の残るセーターを、日番谷の頭から強引にかぶせた。サイズが随分違うから、着せるのにあまり苦労はしなかった。

「いきなり何すんだよ」
「温かいやろ?それ、着ててええから」
「でもお前は…」
「あァ、ボクはええんよ。こうやって暖とるから」

にっこり笑って、市丸はここぞとばかり腕を伸ばして、するりと抱き付いた。そして小さく震えた手を自分の手で包んで、摩擦をおこし暖めてやる。
すると日番谷は心地いいのか本気で抵抗はせず、顔だけこちらに向けて抗議の声をあげてきた。

「離れろばか!ここ教室だぞ!みんな見てんじゃねぇか」
「えー?ボクはただ、暖とってるだけやのに。なんややましい事でもあるみたいやなァ」
「うるせぇ。とにかく離れろっ!」
「いやー。日番谷さん温いもん、気持ちええ」

すりすり顔を近付けると、とてもいい甘い匂いがして、ぬくぬくして、湯たんぽみたいだった。


「湯たんぽみたいや。ずっと抱きしめときたい」

更にぎゅっと抱き包めてうっとりした声でそう告げると、日番谷は「あほ」と小さく呟いて、満更でもなさそうに穏やかな笑みを浮かべていた。


END

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柚さんへの捧げもの。
返品・受け取り拒否可です!

ぶかぶかのセーター着たヒツはめちゃめちゃ可愛いだろうな。袖から手が出ないとかにやにや。
そして市丸の匂いがするセーターにドキドキしてるはずです!(断言)



2009.12.01
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