雨の日はご注意
2012/07/17 10:19



ああ、やばい。
雨が降ってきた。


傘を持っていない。
けれど問題はそんなことではなく、もっと別のところにある。

ポツポツと地面の色が変わっていく。これは、早く戻らなければ大変なことになってしまう。
瀞霊廷へと向かう足を早めて急ぐけれど、雨足は次第に強くなっていく。死覇装の黒がところどころ濃くなって、それに比例するように俺の身体に変化が訪れる。

「はっ、ハァ…」

熱い。
身体が熱くて、息が苦しい。内側からの痺れるような熱に頭がおかしくなりそうだ。
こんなところで変な気分になるなんてありえない。どうにか抑え込もうとするけれど、身体中を支配する甘い痺れに、立っているのもやっとだった。
このまま隊舎まで戻るのは無理だろうと諦めをつけ、せめて治まるまでは人目につかないところに居ようと、空き家に入り込んだ。


「んっ、ハァ…」

部屋の片隅に丸くなって身体を抱く。雨が降る度にこんな思いをするなんてもううんざりだ。

これは自然に待っているだけじゃ治まりそうもない。
意を決して、熱く息を吐きつつ帯に手をかける。早くこの熱を解放したかった。



その時――――――


「…誰かと思たら十番隊長さんやないの」

「い、市丸!?」

あまりに驚いたために声は裏返って肩はびくっと跳ねた。入り口に立っている市丸は肩が濡れていた。

「十番隊長さんも雨宿りですの?」

「お、おう…」

「…なんや具合悪そうですね?風邪引いてもうたんちゃいますか」

「っ、来るな!」

いかにも心配そうな顔を作って部屋の奥まで進んでくる。市丸の細い手が微かに触れたとき、思わず自分でも驚くような変な声が漏れた。


「ふーん………なるほどなァ」

「あっ、ちが、これは」

「こないなところで欲情してはるなんて。十番隊長さんて、見かけによらずいやらしいんやなァ?」

「これは!体質で…っ」

「ふーん体質なぁ?…水に濡れたらえっちな気分になってまうとか?」

意地悪そうな笑みを浮かべる市丸の言葉にこくこくと頷く。バカにしたような響きを含んだそれを肯定するのは癪だったが、おもしろ半分に言い当てられてしまったのでは仕方がない。

「ほんまかいな。………まぁ、ボクは雨宿りさせてもらうけども、お気になさらず続けてもろてかまいませんえ」

「…なっ」

とれかけの下帯を指して市丸が揶揄するようにニヤリと笑う。

「なんやったら、手伝うたってもええよ?」

スッと身を屈めて熱で赤く染まっている頬に手を添えられると、ぞわぞわした感覚が背筋を這っていった。






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