愛の意味が変わるとき
2010/10/10 12:22


ある日、母さんがちいさな男の子を家に連れてきた。五歳くらいの、銀髪のこ。

「今日から一緒に暮らす冬獅郎くんや。冬獅郎くん、こっちはうちのバカ息子のギン。ほんまアホやけど仲良うしたってな?」
「…ボクが仲良うしてもらうんかい」


この日が、運命の日やった。母さんの古くからの友人であった冬獅郎の母が交通事故で亡くなったそうで、身よりのなかった冬獅郎がうちにやってきた。いきなり知らない人の家に連れて来られたんだから当然かもしれんけど、無口で自分の殻に閉じこもっていた冬獅郎はなかなか懐いてくれんかった。
いつもツンとそっぽを向いて口を開いても可愛くないことばかり。けれど、母さんは仕事で日中ほとんど家にいなかったから、幼稚園に連れて行ったりお弁当作ったりは全部ボクの役目。だから自然と一緒におる時間は増えて、だんだんと心を開いてくれたのか冬獅郎はたまーに笑顔を見せてくれるようになった。
そんなこんなで冬獅郎の保護者のような兄のような存在として一緒に暮らすこと十年間。かつてはあんなに小さかった冬獅郎も今では高校一年生。幼稚園に送り迎えに行っていた頃が懐かしい。

ふとソファにごろんと寝そべった冬獅郎に目を向けると身体をぼてっと投げ出してぐっすり寝入っている光景が目に入った。

「ほんまよう育ったもんやなぁ…」

身体はまだまだ小さいけれど、ご飯を作ったり生活技術を教えたり小学校の授業参観や行事などにも参加したりして、いわば冬獅郎は自分が育てたようなものだ。だからその成長は保護者として素直にとても嬉しい。

そんなことを考えだすと毎日会っているはずなのに、少し懐かしく思えてしまって気付いたら冬獅郎の眠っているソファのそばに座っていた。

「んん…」

そのすべらかな頬に手を添えると、冬獅郎は小さくうなって身をよじった。ぷにぷにとした弾力のある肌は触っていて気持ち良く、目元などは幼い頃の面影をよく残していて本当に懐かしいほっこりとした気持ちになった。
長いまつげや柔らかそうな唇。長いこと一緒にいるけれど、こんなに至近距離で眺めたことはなかったかもしれない。

「綺麗やなぁ…」

改めて見るととても整った顔立ちをしている。男の子やのにかわええなぁなんて思うのは、身内の贔屓目ではないだろう。むしろ、この健やかな寝顔を見て感じるのは家族愛とかそんなものではないような、まるで恋人に感じるかのような愛おしさ。


──キス、したい。


そう思ったときにはもう顔はすごく近くて。ふにっとした甘い感触が唇に訪れた。目を閉じて夢のような柔らかさに夢中で己のそれを押し当てる。自分と同じ石鹸やシャンプーを使っているのになぜかふわりと甘いにおいがして、胸をどきりと高鳴らせた。

経験もそこそこあるし、もう自分はキスくらいでときめく年ではないと思っていたのに、なぜだか胸の奥がきゅんとしてどきどきと脈打った。

離れる瞬間に軽く舌をだして冬獅郎の上唇をぺろりとなめる。ゆっくりと離れていくのが名残惜しかった。

「あ……起きてもうた?」
「……っ!」

唇を離して閉じていた目をゆっくり開けると、大きな翡翠がこぼれ落ちんほどに見開かれていた。かわええ。なぜかそんなことを考えられるほど自分は落ち着いていた。

「な…、何して…!」

ぱくぱくと口を閉じたり開いたりさせて、冬獅郎はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。

「あ、せや夕飯は何食べたい?そろそろ準備せな」

少し早口にはなってしまったが、何ごともなかったかのようにおもむろに床に手をついて立ち上がると、「ま、待てよ…っ!」と腕を掴んで引き止められた。

「ん?」
「…ッなんか言うこととか!ねぇのかよっ!?」

真っ赤な顔をした冬獅郎に怒鳴られる。まぁそら、当たり前か。家族も同然の冬獅郎に手ぇ出してまうなんて自分でもびっくりや。
掴まれた腕をさり気なくほどきながら振り向きざまに告げる。


「ボク、…冬獅郎のこと好きみたいや」




「え……」
「でも気にせんでええよ。今のは忘れてな。…気持ち悪かったやろ?」

それだけ告げて無理に笑ってみせた。ああ、これで嫌われたらショックやな…。とんでもないことしてもうた、なんて少し後悔しながらキッチンに入ると、少ししてからリビングの方からどたどたがたんばたん!という大きな物音が聞こえてきた。


End
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2周年ありがとうです!
趣味丸出しの誰得文ですね^^わかってます


もうちょっと市丸さんの心の葛藤とか書きたかったな。家族としか思ってなかったはずやのになんで…!?とか十も年の離れた男の子に手ぇ出してもうた…みたいな。






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