生意気な後輩




「あんたがみょうじ…先輩ですか?」

唐突に廊下で声が響く。
白石君より低めなその声は、私を驚かせた。

「う、うん。私がみょうじだけど。」
知らない人と話すことは得意じゃないから、少し声が裏返っている気がする。

「へぇ。こんなチンチクリンが白石先輩の彼女なんですか。がっかりしましたわ。」
なにげ失礼なこと言ってるよね、このピアスの少年。
殴ってもいいよね?
いえ、私は大人だから、こういうときは落ち着いて応対するの。

「で、用件って何かな?」
「みょうじ先輩。顔から怒りを隠しきれていないんですけど。」
呆れた様に溜め息をつく前の少年。
よく見ればカラフルなピアスに耳が彩られている。
多分白石君の事を敵視する誰かかな、と勝手に決めつけてみる。

一応この学校って、ピアスつけていいことになってるけど、こんなにつけてる人は見たことない。

「で、君は誰?名のらないのは失礼だと思うな。」
でもさっき言っていた゛チンチクリン゛とかも失礼なような気がするが。

「あ、すんません。俺があかんでした。」
頭を下げてきたから、反省したのかな、って思ったのに、その子が顔をあげるとそこに張り付いた意地悪な笑み。

うぅ〜、意地悪…。

最近白石君は優しくてこういう意地悪な笑みはしなくなったから、久しぶりに感じるその笑いに傷つく。

「光!駄目やで。なまえに意地悪しちゃ。」
唐突に後ろから声がして、振り向くと白石君が怒ったように光と呼ばれた子を見てる。

「ちぇ。まぁ、しゃーないっすわ。」
溜め息をつくと、笑みの消え失せた顔で私を見て言った。

「高2の財前光ですわ。よろしゅうお願いします。」
「よろしく、財前君。」

ニコリと笑うけど、笑顔がはりついてる様な気がする。
聞いたことがある、財前光。
テニス部でピアスつけてる派手な人。

「ね、白石君。やっぱり、この怒り。我慢出来ないかも。」
「ほら、光。駄目やで!先輩に失礼なこと言うちゃ。」

白石君はなだめる様に私の頭を撫でてから言う。
財前君はああ、そのことなんです、と私のほうを向いて言った。

「別れてくれません?あんたが白石先輩の彼女だといろいろめんどいんですわ。」
財前君の顔にはかなりの私に対しての嫌悪感が浮かんでいたんだから、私は驚きながらも財前君を見返す。

「なんで?どんなふうにめんどくさいの?」
「そうや。俺もなまえとは別れたくないんや。訳、言うてみぃ。」

財前君はそれなんですよ、と溜め息をついた。

「直接的な迷惑っていうより、間接的なんです。なんか、白石先輩がうかれててウザいんです。」
「「え!?」」

思わず二人合わせて声をあげてしまう。
まさか白石君がくるとは思わなかったから。

「俺、態度だしてた?」
「もうすごくだしていましたわ。ユウジ先輩も呆れてましたけど、気付かなかったんです?」
「全く。ってか、ユウジに呆れられたくないっちゅーねん!」
「まぁそこは同感ですわ。」

なんだろ、この二人失礼な所で意気投合してるよね。
ってか、ユウジって何者なんだ。

「ね、財前君。白石君ってどんなふうに態度に出してるの?」
「あ、そうでしたわ。白石先輩は、なんか最近いつもニヤニヤしてて、みょうじ先輩の話をしてくるんですわ。」

あー、恥ずかしい。
私の知らないところで、私のことが話されてるなんて。
白石君を見ると、思い当たる節があるのか納得してる。

「それに……。」
財前君は何か言いかけたけど、すぐ口を閉ざしてしまう。
何を言おうとしたんだろ。

「仕方ないやん。なまえのことがすごく大好きで仕方ないんやから。」
白石君はサラリと口にして、私は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまったと思う。
「生まれて初めてこんなに好きになった人ができたんや。にやけるのも当たり前だっちゅーねん。」
恥ずかしさと嬉しさで半分。申し訳なさで半分。
白石君はこんなに私のことを好いてくれてるのに、私はその気持ちにまだ答えられていないから。

ひたすら申し訳ない。
早く答えてあげられるようになりたい。

「まぁ、そないならしゃーないっすわ。」
財前君はそうぶっきらぼうに呟くと歩き出す。

「でもこのままだと謙也さんが可哀想ですから。」
すれちがい様に小声で言われて、私は驚き悲しくなる。
謙也の気持ちが分からない。

でも、待つことにしたんだ。
私が隣にいる白石君の手に自分のを絡めると、白石君も嬉しそうに手をつないでくれた。
答えれそうだよ、白石君。

貴方の純粋でまっすぐすぎるその気持ちに。



2011.12.21



 

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