裏腹




「私ね、白石君と付き合うことになったから。」

親友の美紀に告げた。
美紀はひどく驚いたみたいで、あいた口が塞がらないような顔をして「なまえって、忍足君が好きやなかったっけ?」と問いてくる。

「ん?私の一番は白…。」
そう言おうとしたら、後ろから抱き締められて口を閉じてしまう。

「だーれや?」
「白石君!」
私はすぐ答える。
それから振り返ると、やっぱり白石君で。
ニコニコした笑顔を顔に浮かべていた。

「あ、ウチは邪魔やね。お二人でラブラブやって下さい!ほな、なまえまた後で!」
美紀は舌を出して私にウィンクをすると、走って教室を出ていってしまった。

ちょうど昼休みで、教室には人はけっこう少ない。

「ちょっと来てくれへん?」
白石君はそう言うと、私の腕をつかんで教室から出ていく。
私はその手の強さからくる痛みに顔を歪めながら、小走りで白石君を追い掛ける。

「どこ行くの!?」
そう聞いても白石君は一度もこっちを振り返らず、早歩きで人の間を縫うように歩いていく。

昨日、キスをされてから白石君は何度も私に謙也のことを忘れさせてやる、と言ってきた。
私は最初は首を横にふって、ファーストキスを何気無く奪われてしまったことに悲しくなって泣いていた。
けど、白石君は何度も唇を重ねてきて、強い力に抵抗出来ず私の頭はだんだんとボーっとしてきて、何も考えられなくなってしまった。
いつの間にか首を縦にふっていて。

白石君の勝ち誇ったような笑みを覚えているんだ。

「物理…準備室……。」
「そうや。入るで。」

物理準備室に入れられて、白石君が内側から鍵をかける。
ここって怖い場所じゃなかったっけ?
嫌な予感に唾を飲み込んで白石君を見る。

「なぁ、なまえ?」
一歩白石君が近付いてきて、私は一歩後ろに下がった。

「な…に……?」
声が震えて上手く出ない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
白石君がすごく怖い。

私をどこまでも見透かしてきそうな目線や、低い声。
それが私の恐怖感を掻き立てる。

「さっきのことなんやけど。」
また一歩近付いてくる。
私はそのぶんまた下がって。

「俺ら恋人どうしなのに、どうして俺のことを名前で呼んでくれへんの?」
いつの間にか後ろは壁で、目の前には白石君で私の逃げ場はなくなっていた。
白石君が私の左右の壁に手をついて、さらにスペースを狭くする。
私は身動きが出来ず目線を白石君にむけるしかない。

「名前って……。」
「俺の名前や。蔵ノ助。ほら、言ってみ。」

白石君は私の目を見て言ってくる。
綺麗な顔なんだけど、やっぱり怖い。
言わなきゃ、言わなきゃって思うんだけど言葉が出ない。

……謙也を。
謙也を思い出してしまうから。
前から謙也しか名前で呼んでいなかったから。
白石君を名前で呼んでしまうと、謙也が一番っていうのが壊れてしまいそうで怖かった。
謙也のこと好きなの忘れたい筈なのに…何言ってるんだろ。

「出来ない。言えない。」
そう言った途端、唇が相手のそれに重ねられる。
白石君の舌が入ってきて、私の口内を侵していく。
歯列をなぞられて、自分のそれを絡めとられて。
やっと離されたときには、息がきれていた。

「なまえ…。呼んでみ、俺の名前。」
白石君の目は言ってる。
次はこんなものでは済まされないと。

「無理。」

やっぱり言えなくて、私は首を横にふった。
私の中で謙也がどれほど大きい存在だったのか、なんとなく気付いた。

「そうなん。」

私は肩をつかまれて、そのまま押し倒された。
11月の気温でけっこう冷たい床が足や首にあたる。

「白…石君……。」
やめて、そういうように白石君を見る。
すると白石君は一瞬表情を崩した後に、また怖くなって私の制服に手をかけた。
私は崩された表情が頭から離れなくて、上手く抵抗が出来なかった。






私の気持ちとは裏腹に、行為の最中に白石君の包帯で包まれた左手が私を触るたびに反応する体が嫌だった。

「っ……。白石君!」

いつの間にか授業が始まる時間になっていた。
溢れる涙を手でぬぐって、私は白石君に訴える。

「なまえ…!」
白石君はハッとした様子で私を抱き締めた。
白石君の指先で溢れる涙をぬぐわれて。

「ごめんな、本当にごめん。」
泣きながらそう謝ってきた。
意味が分からないよ。
本当はすごく体を重ねることが嫌だったのに、そんな顔されると何も言えなくなるよ。
私は大丈夫と言って、白石君の頭をそっと撫でた。


2011.12.16



 

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