観覧車




空中に浮かぶ二人だけの空間。
その為に観覧車が今、存在しているような気がする。

「どんどん小さくなってくよ!」
「そやな…。」

さっきから白石君の元気がない。
多分……男の人達が最後に言った言葉から。

「あのね、白石君…」
「あのな、なまえ。さっき俺な、逆ナンされてたんや。」
無理に話しかけようとしたのを遮って、白石君が話し始めた。

「丁寧に断ったつもりや。ただ、な。そのせいでなまえから目を離してしまったことに後悔してるんや。」
白石君は目をふせた。

こんなときに思うのもなんだけど、そんな彼の姿さえ絵になっていた。
綺麗、そのうえ妖艶。
そんな言葉がピッタリだと思う。

「そのせいでなまえは嫌な思いをしたんやろ?」
「……。」
頷けない。
頷きたくない。
もしここで頷いたら、白石君は自分をせめてしまう。

「そんなことな「なくないわ!」」
白石君が珍しく声を荒げた。
「……すまへん。でも嫌だったやろ?女の子やもん。」
小さく、本当に小さく頷いた。
「そやろ?なんかなまえにそんな思いをさせた自分が情けなくて。」
白石君は人に丁寧な気遣いがある。
だからこそこういうことに人一倍敏感。
「俺のこと好きにさせたるって前に言ったのに、嫌な思いさせるなんて、な。俺のこと、嫌いになったやろ?」
彼はすごく悲しそうな顔をしていた。
いや、哀しそう?
分からないけど、言葉では表せない程の表情。

「違っ…。」
「なまえは優しいから俺に気遣ってるんやろ?」
「違う!」
「違わない!無理せんくてもええ!」
声をまた白石君は荒げた。
すぐ、彼は寂しく笑う。
その笑みに私は胸が締め付けられるのを感じた。
彼はガラス越しに外を眺めて、遊園地楽しみたかったなぁと呟いた。


もう限界だった。


「白石君!」
私は彼の名を呼び肩をつかんで、自分の唇に相手のそれを強引に重ねた。
まるで初めてされたキスみたいに。
白石君は目を丸くしてからそっと目を閉じた。
それから頭をつかまれて、キスはだんだんと深くなっていった。


久しぶりのキスだった。
舌を絡みとられ、お互いの唾液が混ざりあう。
頭がクラクラした。
こんなんになるなんて、白石君はキスが上手。

「ぁ……ん。」
声が自然ともれる。
ようやく離されたとき、彼と私の唇から糸がひいていた。

「なんでなん?なんで俺とキスしたん?」
「決まってるよ…。」
息をすう。

「白石君が好きだからに決まってる!白石君ぐらいの気遣い上手なら気がついてよ!」
白石君はさっきキスしたときぐらいに驚いた顔をしていた。
「最初はただのナルシストかと思った。だけど一緒にいるうちに、良い人だなって思って……。」
「っ……。」
「気づいてよ!こんなに好きなのに!!」
私は叫んだ。
同時に涙も溢れてくる。
気付いたら、自分で思う以上に白石君のことが好きになっていた。
泣いていると彼に優しくフワリと抱きしめられた。
頭を撫でられ囁かれる。
「おおきに、なまえ…。」
「うん、蔵…。」
名前で呼んだ。
心の中で謙也が寂しそうに笑った気がした。
けれど、ね、謙也。
今の謙也なら私達のことを応援してくれるよね?
そんな気がするんだ。
「本当におおきに。」
嬉しそうに笑う蔵の目のふちに光るものが見えた気がした。




2012.1.2



 

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