勝ったのは

壁に押し付けられた。いきなりのことで私は眉を動かした。柳が私の肩を壁に押し付ける力が強くて痛い。
柳の顔を見上げると、息が乱れているとかじゃなくて、いたっていつもの冷静そのものだった。性的暴行を加えてくるみたいじゃなくて、私は息を一回吐いた。


「なんのつもり?」
「それはこちらのセリフだ。」


耳に低温で囁かれて吐息が耳にかかる。くすぐったくて、私は身じろぎをした。


「お前はいつも俺の顔ばかりうかがってる。たまには本心で話さないか?」
なんだそんなことか。思っていたことよりも全然軽くて私は再度息をはいた。
「柳だって私の顔色をいつも見てる。今だって私の反応見て楽しんでない?」
「ばれていたか。」


柳はフッと微笑んだ。私は舌打ちをすると柳を私の体から離しにかかった。今の体勢では誤解されかねない。
でもどこか誤解されてもいいと思う私もいた。
男女の力の差は歴然としていて押しても押してもビクともしなかった。


「そういえば告白された。なかなか顔の整ったやつで、派手でもないし勉強も出来る。」
「自慢?」
「その告白受けようと思っている。」


初めて聞いた話に私は目を見開いた。柳が、女の告白を受ける?なにそれ。前例なんかない。でも才色兼備なんて男の理想だ。もともと顔が整った柳だ。有り得ない話じゃなかった。
私は抵抗していた手を体の横に落とした。


「そ、うなんだ。」
「ああ。」


冷静を装ううとしても出来なくて、さらにそれが私を焦らせる。一回下を向いてから、柳に視線を戻すと黒い瞳が私を見ていた。


「だからこうして壁に押さえ付けるのもこれで最後というわけだ。」
「そ、う。」


じゃあな、と柳は呟くと私の肩から手を離して私に背を向けた。
―――行ってしまう。
柳が歩くと同時に心の距離も広がってしまう気がする。それがすごく嫌だった。


「柳っ!」


私はいつのまにか名前を叫んでその背中に抱きついていた。行かないで。そんな気持ちを腕に託しながら。


「どうした?」


少し驚きながら柳は振り返った。困っているのか唇に少し笑みが浮かんでいる。


「告白なんか受けないでよ!好き好き好きだから…。」


本心を曝け出す。今までただ柳の反応を伺いたくて。曖昧なことしか言っていなかった。でもそのままだと間に合わないような気がしたから。言わずになんていられなかった。


「困ったやつ。」


断られる。そう思って目をギュっと瞑ったけれど拒否する言葉や行動はふってこなかった。


「分かった。告白は受けないことにしよう。」


驚いて目を開くと優しい笑みが目の前にはあって、柳は体の向きを変えると私に抱きついてきた。


「い、いいの?」
「あぁ。」
「なんで?」
「何故だろうな。」


曖昧な言葉しか出さない柳を私はグーで殴ろうとすると、彼は笑いながらその拳を軽く受けとめた。
目が合うと急に告白したことが恥ずかしくなって、私は顔の紅潮を隠すように後ろを向いて柳の腕の中から強引に抜け出してその場を去ろうとした。けれどそれはいとも簡単に腕をつかまれて阻止される。


「お前が好きだからに決まっているだろう?」


口に勝ち誇ったような笑みを浮かべ柳は言った。



駆け引きに勝ったのは彼
(負けたのは私)


20120605
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