一応ファーストキスだった。それがこんな形になるなんて誰が予想したんだろう。誰かさんのせいで、こんな強引な行為になれていると言っても私はやっぱり女の子であって。ファーストキスなんだからもっと良いものにしたかったと思ってしまう。しかもあんな少しも気持ちのこもっていないキス。最悪だ。
私は自分の唇にふれた。何度も何度も水で擦って流した。キスしたという事実も無くすように擦って擦って。“ファーストキスは好きな人として初めてファーストキスなのよ”なんて漫画のセリフを思い出した。例えそうだとしても、キスしてしまったということはやはり変えようのない事実。やっぱり私にはファーストキスにはかわりないのだ。
どこまで困らせれば、否悲しませれば丸井くんは気がすむのだろう。たかが丸井くんの本性を知ったぐらいで。



屋上の扉の前で丸井くんを待っていると、階段を登る足音が聞こえ彼かと思い立ち上がったら仁王くんだった。指先に鍵についた輪を通してクルクルと回している。


「屋上行くの、ブンちゃんだけじゃないんぜよ?」


私はとても驚いた顔をしていたんだろう。仁王はプブプと笑いながら言った。



仁王は慣れた手付きで鍵を開けると私の腕をひいて屋上に入っていく。その腕が優しくて、思わずあの人とは大違いだな、なんて思ってしまう。馬鹿馬鹿。なるべく丸井くんのことなんて考えたくないのに。


「ブンちゃんは今日は他の女子と昼飯食べるらしいから、俺と一緒に食わんかの?」
「そうなんだ。」


久しぶりに平穏なお昼休みが過ごせそうだ。笑いながら頷いてお弁当を広げて気付いた。もう1つ、余分につくった丸井くんへのお弁当どうしようか。それを持ってキョロキョロとしていると、仁王くんと目が合って笑いかけられたと思うとお弁当をとられた。


「ブンちゃんのじゃろ?なら俺もらうきに。」
「えっ。」


作った本人の意見をさしおいて、勝手にお弁当を広げて食べ始める仁王くん。一口食べると「美味い!」と言って頬張る。平穏で心地よくて、どこか嬉しい。ときには緊張から解放されるのもいいな。
私は仁王くんの向かい側に座ってお弁当を食べ始めた。



不意に扉が大きな音をたてた。誰かが扉の反対側から衝撃を加えている。確か仁王くんが内側から鍵をかけていたから開かないのも当然。だからこそ無理矢理開けようとしているのか。仁王くんを見ると、相変わらず平然とお弁当を食べていた。凄く落ち着いている。まるで開けようとしているのが誰だか分かっているように。


「仁王っっ!」


その人は大きな音をたてて扉を蹴破ると、頭に直接響くぐらいのボリュームで叫んだ。赤い髪に紫の瞳。高い声。丸井くんだ。もう女子と一緒にお昼ごはん食べ終えたのだろうか?


「なんじゃ?」
「お前、なんでそをなことしやがったんだ!?」




「うるさい。」


それは有無をも言わせない声。いつものらりくらりとした仁王くんからは考えられない。例えるならば絶対的な圧力。丸井くんもさすがにビビったようで黙った。


「みょうじはもう教室戻りんしゃい。もう授業始まるきに。」
「……うん。」


本当は授業開始まであと10分近くある。だから、多分私に聞かれたくないことなんだと思う。それに正直この険悪な雰囲気は苦手だ。
私はイソイソと広げていた荷物を片付ける。早くこの場から立ち去りたい。屈んでいる私の頭上では、丸井くんと仁王くんの視線が交差している気がしてなかなか顔をあげられなかった。


「じゃあね。」
「あぁ。」
「………。」


相変わらず丸井くんは私に目もくれずに、ただただ仁王を睨んでいた。


20120605

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