ある日の放課後。丸井くんからの行為もここ一週間近くなくてホッとしていたとき。教室に忘れ物をしたことに気付いた私は、校門まで来ていたが友人に先帰っていて、と告げると校舎に戻った。
この時間はテニス部は部活だ。テニスコートのほうからボールのアタック音が聞こえてくる。これなら大丈夫。例の人は部活に出ている。
ガラリ、と扉を開けたとき程今までに後悔したことはない。教室の壁に女の子が寄りかかっていて、そこに男の子が覆い被さるようにキスを交していた。漫画なら見たことあったけど、リアルなのは見たことない。顔が赤くなっていくのが嫌という程感じた。


「ごめんっ!」


私はそう言うと自分の机に駆け寄り、中から薄ピンク色の携帯を取り出す。二人の視線が私に向けられている気がする。なんでこんなタイミングで携帯なんて忘れたんだろう。私は逃げるように教室から出た。



「なに?キスぐらいで赤くなって。どんだけ初なわけ?」


教室から出て体を落ち着けようと、下を向いて座り込んでいたら上から声が聞こえた。この人はどれだけ暇なんだろうか。私は逆にそう問いたい。頭をあげると、やっぱりそこには腕を組んでテニスウェアを着た丸井くんがいた。


「うるさい。丸井くんには関係ないでしょ。」


私はそう吐き捨てて、彼に背を向けようとしたけど、おもしろおかしく告げられた「逃げるの?」という言葉に動きを止めた。そういえば、この前横暴にも勝手にルールを追加された気がする。私は息を吐くと丸井くんのほうを見た。


「なに?」
「だからみょうじってどんだけ初なわけ?まだキスもしたことないわけ。」


言い方がすごく癇にさわる。キスしたことがないのをまるで異常なことのように言うんだから。でもそんなことを言う丸井くんは、何百回もキスしたことがあるんだと思うと、私の好きだった彼がまた一歩遠退いていくような気がして辛くなった。


「だからなに。」
「ふーん。」


丸井くんの口がさらにキツイ弧をえがいた。また何かやり出すつもりではないだろうか。異常なら異常でほおっておいてくれればいいのに。
不意に頭を後ろから強い力でつかまれた。もがくけれど逃げ切れない。


「やめて!」
「やめねぇ。」


怖くて怖くて私は目をギュっと瞑った。この前に体を触られたこてを思い出す。またそういうことされるって言うの?嫌だよ嫌だ。
でもきた感触は体にではなくて。


「んっ!」


唇だった。感じる柔らかさ。頭はパニックでなにも考えられなくなる。
薄目を開けると丸井くんが目の前にいて、私は抵抗しようと体を動かした。だけど抵抗すると、丸井くんは私を壁に押し付けて、片腕で私の腕を拘束する。


「だから、抵抗なんてしていいわけ?」


声がみょうに低い。それが私の体を捕えて動かせなくする。それにキスはだんだんと激しく熱を帯びたものになっていって。無理矢理口をこじあけられると、舌がいれられる。ザラザラしていて濡れた感触が私の口内に感じる。


「っ…。んっ」


頭が真っ白に塗り潰されていく。もうどうにでもなれ。今更抵抗したところで逃げられるわけでもないし、そもそも抵抗出来ない。私は体の力をぬいた。



やっと唇が離れていく。つーっと、糸がひいたのを丸井くんは目を細めてみていた。私は操ることのやめられた操り人形のように床に崩れ落ちた。呼吸が上手く出来ない。


「これがキスってやつだから。覚えとけよ?」


私は首を横にふったけど、その感触を忘れられそうにない。多分それを分かっていて丸井くんも言ったんだと思う。
離れていく彼を私は苛立ちながら見つめた。


20120616

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