「ね、なんかお菓子持ってねぇの?」



学校に着いたとき不安で怖くてしかたなかった。
空席の隣の丸井くんの席を見て、いつ学校にくるのかな。
私を見てどんなことを言ってくるのかな。
どんなことをしてくるのだろう。
ずっとそんな考え事しかしていなかったから、いつものとおりに話しかけられて凄く驚いた。

「ぇ、えっと…、そのっ。」
「ん?持ってないの?」
「い、いや。持ってるよ。」

鞄に癖で入れていたお菓子、今日はアルフォートを机の上に出した。
丸井くんはそれを見て、キラキラと光る目で見つめていた。
昨日までならそんな彼を見て可愛いとか思っていただろうけど、これが演技なんだと思うとなんだか怖かった。

「うめー!」
「そ、っか…。」

私のほうを見てくる丸井くんにびびりながら、私は机に視線を落とした。どう反応していいのか分からない。
昨日はどんなふうに言ってたっけ。
下手にぬかすと丸井くんに怒られそうだし。

「……はぁ。」

丸井くんは深く溜め息をついた。とても呆れたような顔してる。

「ごめん……。」

ちいさく謝ると、「ちょっと来い!」と丸井くんは言うと私の腕をつかんで教室から出ていく。
友達は歓声をあげてる。いや、それよりも助けてほしい。



「授業は?ホームルーム始まっちゃう!」
「少しぐらい遅れたっていいだろぃ。」

よくないよ。そう言いたいけど声が出せない。
階段を登ると屋上に続く扉の前についた。
でもこの扉。生徒の屋上転落から防ぐために、いつもは鍵がかかっているとか。
だからここに来るだなんて思ってもいなかった。

「鍵かかってるよ。」
「それぐらい知ってるつーの。」

そう言うと彼はポケットをから何かを取り出して扉の鍵穴にさしこむ。
ガチャンと音がして、いとも簡単に閉ざされていた扉が開いた。

「……は?」
「仁王から借りた鍵。」

ウィンクをして、鍵を私の目の前で揺らしてみせた。
鈴のついているそれは、確かに前に見た学校の屋上の鍵とそっくりで。
職員室から鍵かりて複製したのかな。
まぁ、仁王くんなら何でもやりそうだけど。



扉を開け放つと、暖かい春の風が私の頬をかすっていく。
いっそ投げ出して寝てしまいたい。
どれだけ気持ちいいかな。

「お前さぁ、分かりやすすぎ。」

丸井くんは屋上に内側から鍵をかけると、フェンスにもたれて言った。
髪をかきあげてまた溜め息をついた。
私は丸井くんの正面に立って頷いた。
なんか説教されてるみたいで気分が下がる。

「昨日までとマジ態度違う。気をつけろって。」
「うん。」

私は素直に頷いていたはずなのに、何故か丸井くんは口の端を意地悪くあげた。
なにか問題なことを言ったのかな。
いや、言ってないはず。
言葉選びはすごく気を付けて話している。

「みょうじさぁ、俺に気あっただろぃ?」
「な、んで…?」

声が上擦ってしまった。
これだと肯定したのと同じだ。
冷や汗が顔をつたったような気がした。

「見てればわかるっつーの。どう?俺のこと嫌いになった?」
「っ……。」

素直に頷いたらどうなるかな。
昨日みたいなことされると思うと怖くて、首を横にふった。
もうやだ。涙も出てきたよ。

「涙は肯定の証な。」
「……。」
「な。ぶっちゃっけどういうのが好みなわけ?」

丸井くんはいきなり私を引き寄せた。
顔が丸井くんの胸あたりにあたる。
涙がワイシャツに染みを作っていく。怒られないか不安だ。
でも気にしてないみたいで、私の顔を顎をつかんで持ち上げると笑いかけてくる。

「可愛い子が私のタイプ。」

短く告げると鼻で笑われた。
確かに私のタイプは丸井くんの演技とまったく同じだけど笑うなんて酷い。
もともとそういう可愛いを演じていたのは丸井くんでしょ?

「ならゲームしねぇ?」

囁かれて、口からもれる吐息が耳にあたる度にビクビクした。
だけど内容は気のぬけるようなものだった。

「ゲーム…?」
「そう。俺とお前のゲーム。」
「どんな?」
「ったく、さっきから質問ばっかりだな。」

丸井くんはイタズラっぽく笑った。
何故だろう。すごく親近感が沸いた。

「みょうじは俺のこと嫌いだろぃ?なら、さ…。」

丸井くんはもったいぶるように間をあけた。
気になるじゃないか。じらさないでほしい。

「これから夏休み開けまで俺のことをずっと嫌いでいたら。要するに俺を好きにならなければお前の勝ち。好きになったら俺の勝ち。どう?」

なんでそんな勝敗の決まったゲームをやらなければいけないのか分からない。
私が勝つに決まっているじゃないか。
人を好きにさせるなんてそう簡単にいくわけないのに。

私はずいぶんと複雑な顔をしていたんだと思う。
丸井くんは私の頭をワサワサと髪を乱すように撫でて言った。

「お前勝ったらさ、俺もうお前に関わらないから。俺のこと嫌いなら嬉しいだろぃ?」
「……。」
「かわりに俺が勝って、お前が俺のこと好きになったら俺の言うことを何でも1つ叶えてもらう。どう?やる?」
「…………。」

願いってなんだろう。ヤらせろとか、貢げ、かな。

それでも。
無言で、やるの意味をこめて頷いた。
絶対勝てる。そう自分に言い聞かせる。

「ん。その返事を聞けて嬉しいぜ。」

顔をつかまれると額にキスされた。
キスされたところが熱くてどこか熱を持っている気がした。
けれど。目の前の意地悪く笑う人は最低な性格をもっている。
油断は絶対してはいけない。
私は彼を睨んだ。


2012.04.27

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