私の隣の席の人は私のタイプです。


「なんかお菓子持ってねぇの?」

授業の合間の休憩時間、時間帯的に一番お腹がすく11時頃。丸井くんは私に首を傾げて聞いてきた。その姿は子犬が尻尾をふっているみたいですごく可愛い。

「あるよ。」

鞄からボッキーを出すと、真ん丸な目には星が入ってお菓子を見つめる。体をゆらりゆらりと揺らしていて、クセのある髪もその動きに合わせて動く。

「はい、あーん。」
「あーん。」

ボッキーを一本手にとり丸井くんに近付けると、目を閉じて大人しく口を開ける。そこに入れると嬉しそうに租借していった。

「うまっ!やっぱ季節限定は違うな!」
「うんうん!」

でも、お菓子を食べる丸井くんを見ているほうが私的にはおいしい。ずっと見ていたくなる。なんだかストーカーじみている気が。
他にも私が渡したお菓子を頬張る丸井くんを見ていたら、目があった。ニッと笑いかけてくる。本当に好みだ。可愛いところとか可愛いところとか。



「ほら。みょうじも食えって。」
「いいよ。丸井くん全部食べても。」

そのほうが喜ぶ丸井くんを見れるから。でも丸井くんは「いいから食えって!」と言うと私の口に押し込んでくる。


可愛いくせに、ワガママでもなく優しい。こんなに良い男子見たことない。
だからこそ丸井くんはモテる。今までの告白を全て断っているみたいで、彼女はいないらしい。この前モデル級に可愛い女の子もふられたらしい。だから私なんかが告白しても断られるに決まっている。ならいっそ、気まずくなるよりはこの関係のままがいい。
この気持ちは絶対本人にバレないようにしよう。私はそう心に決めた。



「学校出る時間遅れた…。」

先生からの雑用、否仕事をこなしていたら時間が遅くなってしまった。時計はもう7時をさしていた。先生からの仕事をするときは最終下校の時間の制限は無くなるらしい。

「あれ…。丸井くん?」

校舎の裏に丸井くん特有の赤い髪がチラリと見えた。この学校にあんな鮮やかな赤い髪を持っている人なんて丸井くんぐらいしかいない。
なんでいるのかな?本来はこの時間はもう学校いちゃ行けない時間だよね。もしかして先生に雑用押し付けられたのかな?聞きに行ってみようか。

「丸、……。」

呼び掛けようとして、すぐ校舎影に隠れた。なんだか雰囲気が怖い。
仁王くんと丸井くんがなにか話していた。
盗み聞きしてはいけないとわかっていたけれど、少しぐらいならいいんじゃないかなって。


「いつまでヘラヘラしてればいいわけ?」
「まぁ仕方ないじゃろ。諦めんしゃい。」


なにがヘラヘラだっていうの?
それになんかすごく深刻で重そうな話だ。聞かないほうがいい。ここからばれないように去ったほうがいいと第6感が告げていた。
今すぐ、離れよう。
そう思ってその場から離れようとすると、ピシッとかすかだが音がでた。足元を見ると木の枝。踏んでしまった。気づいてないといいのだけど。

「誰か…いる?」

けれど気づかれてしまったらしくて、こっちにくる足音がする。
まずいまずい。心臓が今までにないぐらいドキドキしていた。隠れ場所を探してみても、それらしくなりそうなところはなくて、私はただつったっているしかできなかった。

「みょうじ!?」
「…うん。」
あぁ。見つかってしまった。どうなるんだろうか。

「どこまで聞いてた?」
「ヘラヘラ……?」

黙っているのはよくなさそうだったから、答えておいた。
丸井くんはため息をつくと、私のほうを改めて見た。なんか目がほそまって、いつもと雰囲気が違う。

「あーあ。なら仕方ねぇや。言うけど、ずっと俺演技してたわけ。ヘラヘラして、みんなの弟キャラ演じたの。わかる?」

信じたくない。だってあの笑顔が可愛い丸井くんが演技だったなんて。私の大好きだった彼はどこに行ってしまったというの?

「なら、本当の丸井くんはどんなの?」
「本当の俺?へぇ。知りたいんだ。」

声に艶が帯びる。仁王くんが「おい。」と声をかけたけど、丸井くんは無視したみたいだ。いつもは真ん丸で、でも今は細まった目が私をとらえる。
ゆっくりだけど一歩ずつ迫ってくるものだから、私は後ろに一歩ずつ後退する。隣の席の近さ以上に今の体の距離は近すぎる気がした。
どうしよう。背中が壁についてしまった。もう後ろに下がれない。丸井くんは逃げられないようにするためか、私の体の横の壁に手をついた。彼しか見れない。視線をそむける場所がない。

「これが本当の俺。」

制服の中に手を入れられ私はいきなりのことで驚いたけれど、頭でその状況を理解すると恐怖で体が震えた。体を物色してくる。少し冷たい丸井くんの手が私の肌を撫でる。その手が胸の近くにきたときはビクリと体を震わせた。

「やっ……。」
「叫んだら、もっと酷くなるからな?」

元々叫べない。怖くて声が出ないんだ。少し出せた抵抗の声も震えていて、すごく弱々しい。こんなんじゃ抵抗できるわけない。

「どう?俺が嫌いになった?」

いきなり体が離れると、丸井くんは眉を下げて言った。感じるのは先程の刺々しさというよりはいつもの雰囲気。ただ本当に悲しそうで。ジッと私を見据えている。
なにか言わないと。
そう考えたときに「そこまでじゃ。」と声がかかった。見るとかなり不機嫌そうな仁王くんで。

「ほら、ブンちゃん。止めじゃ止め。」
「ちぇっ。」

親が子供を諭すように仁王くんが言うと、丸井くんは舌打ちを一回してから私から離れた。その行動が少し子供みたいで、どこか教室での丸井くんみたい。

「みょうじももう夜だ。帰りんしゃい。あと、ブンちゃんがいろいろとすまなかった。」

ポスリと頭をやさしく撫でられた。どこか安心して座り込んでしまう。これって腰がぬけたって言うのかな。ちょっと違うか。

「じゃあな。」

仁王くんは丸井くんの背中を押しながら笑顔で言ってくれた。丸井くんは私をチラリとも見てくれない。

「……明日が不安。」

私は闇に溶けていく2人の後ろ姿を見ながら呟いた。



2012.04.12

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