丸井くんが変わった。作ったお弁当を渡せば「ありがとう」と笑顔で言う。ジッと見つめれば、首を傾げて犬みたいに笑う。
あのときより以前の丸井くんに戻ったんだ。そう。放課後丸井くんと仁王くんが喋っていたのを見てしまった以前の。
だから優しくて優しくて。でも心は遠のいてしまった気がして、なんだか寂しかった。
それを言っても丸井くんは困ったように笑うだけで、なんだか凄く泣きたくなった。




「俺なにかしちゃった?」

自分の席に座って溜め息をついたら、いつのまにいたのか幸村くんが前に立っていて、恐る恐る聞いてきた。
昼休みでけっこうな人数が他のクラスに遊びに行ったからか、教室には人が少なくて幸村くんも女の子の視線から解放されている。
彼の言ったことがどういうことかよく分からなくて、いや、私は分かろうとしなくて笑って首を傾げたら「だから!」なんて少し声を荒げた。

「他のクラスの俺でも分かる!最近丸井と上手くいってないんだろう…?」

語尾を段々小さくして幸村くんは言った。やっぱり他人からもそう見えているんだ。
もう丸井くんは屋上に行ったのか、教室にはいなくて本人を気にせず話すことが出来た。

「何も言わないで。」

私がぴしゃりとはねのけると、そっかなんて幸村くんは笑った。





私は溜め息をついた。
駄目だ。偽りの丸井くんを見てしまうことが怖くて屋上に行けない。
一人で落ち着いて裏庭でお昼ごはんを食べようか。ちょうどあそこは人目も無いに等しいし。
なんて思ってそこへ行ったら、

「お前さんもここに来たんか?」

仁王君にバッタリ会った。ベンチに寝転がって片目を開けて私を見てくる。なんて自由なやつ。そう思いながら私は頷くと、「そか。」なんて言って体を起こしてベンチの自分の隣を叩いた。おずおずと座ると、仁王君が私の2つ持っていた弁当の1つを奪って食べ始めたから私も食べ始める。

「ブンちゃんのとこ行かんのか?」
「んー?」

笑って誤魔化したら仁王君はジッと私のことを見た。その目は厳しくて、どこまでも見透かされてしまいそうで。見ていられなくて思わず目をそらした。
今まで仁王君は私のことを守ってくれる、優しくていい人だった。だけどいつのまにか変わってしまった。仁王君は私のことを、なんていうか、まるで興味深いものを見るような。そんなふうに思ってる気がした。

「………ハァ。」

仁王君は一回溜め息をつくとまたお弁当を食べ始めた。表情も視線も柔らかかった。ホッとして私も食べ始める。

「な、お前さんはなんか特技とかあんのか?」
「え?」

不意に仁王君が口を開いたのだから、私は驚いて箸をおとしそうになった。

「特技じゃ特技。」
「特に…。あえていうならピアノ?」
「そか。」

興味がなくなったように溜め息をついた。さっきからいったいなんなわけ?私がなにかしたっていうの?

「ねぇ…」

それを聞こうと口を開いた瞬間、仁王君の顔がいきなり近くなって、押し倒された。驚いて息が止まりそうになる。今まで丸井君にもこんなことされた経験はなかった。

「なぁ。お前さんの全て教えてくれないか?」

あぁ、まただ。かぎりなく真剣になると仁王君の方言がとれる。

「なっ、」
「夢中になってしまうところを俺だけに教えてくれ。」


20120824

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