―――なんて、冗談に決まってるだろぃ?
あの後口をパクパクさせていた私に、丸井くんは笑いながら言った。
本当に冗談なの?私には到底思えないよ。だって、あの時の丸井くんの目は。目は冗談じみた目じゃなかったから。それぐらい、嫌でも一緒に過ごしてきたんだから分かる。
迷う私は季節に置いていかれそうだった。ただ、ただよく分からずに時間だけが過ぎ事は動いていく。それだけのこと。





「あー、幸村くんかっこいい!」
「家庭科で作ったの!これ、食べて!」

廊下がざわついた。私は家庭科の調理実習が終わり、教室に戻る途中でクラスメートの何人もの女の子が幸村くんを取り囲んで、先程作ったカップケーキを渡そうとしていた。あれは逆に幸村くんが可哀想だ。でも彼は笑みを崩さない。迷惑だろうに、笑顔のままでいられることが凄いと思う。
お気の毒だな、と遠目で見ていると目があった。

「みょうじさんじゃないか。元気かい?」

女の子達にごめんね、と告げて輪から抜けると私のところにやってくる。と同時に私は本能的に後退ると、誰かにぶつかった。

「わ、すいませ、」
「なんだよ〜。前向いて歩けっつうの。」

そこには子犬またいなムウと怒った顔を浮かべる丸井くん。私の表情は瞬時に氷ついた。
幸村くんも私に追い付いて、私は結果的にふたりに挟まれることに。逃げ道はないし、周りから視線を感じるし。

「どうしたんだよぃ、幸村くん?なまえに用?」

いづもはしてこないくせに、ここぞとばかりに名前呼びをしてくる。新密度でもアピールしたいのかな?ったく、迷惑このうえない。

「うん、そうだよ。みょうじさんに用があるんだ。」

幸村くんは綺麗な顔で笑った。けれど違和感しか感じない。丸井くんよりたちは悪くない。ただなんとなく怒ってるような気がしてならない。
ジッと幸村くんの顔を見つめるとニコリと微笑みかけられる。やっぱりなんか不自然。

「じゃ、ちょっとみょうじさん借りてくからね。」

腕をグイっと引かれて引っ張られていく。力が強くて抵抗出来ない。丸井くんを見るとただ呆然と私を見つめていた。それもそのはず。なんであまり交友関係のない幸村くんが私に用あるのか。私さえも分からないのだから。


「何の用…?」
「この前言ったじゃないか、君を助けるって。」

つれてこられたのは旧校舎の1つの教室。なにもかも古いし、空気も埃っぽい。
それよりも今の時間。もう4時間目の授業は諦めよう。さぼりだなんて、あーあ。

「丸井に裏があることは知っていた。俺そういうのに敏感だからさ。」
「うん。」
「でも、みょうじさんで憂さ晴らしをするのはよくない。仁王から最近の丸井は度が過ぎたことをやっているというのを聞いていた。」

見られたわけではないのか。それを聞いて私は安心する。正直見られていたら、恥ずかしさを通りこして怖かった。多分頭の中もグチャグチャになっていた。

「だから俺がなんとかしてあげないと、って思って。」

分かった。多分この人は私のことを想って、私を助けようとしているんじゃない。丸井くんのことが大切な仲間だから。仲間としてこれ以上悪いことをしてほしくないから。だから、私を助けることで丸井くんを助けようとしているんだ。なんていい人なんだろう。そんな友達がいるなんて誇りに思っていいことだ。

「ね、みょうじさん。俺は君のことが好きだ。だから、もし良かったら付き合ってくれ。」



私もなにか丸井くんに出来ないんだろうか。ゲームを投げ出したら、丸井くんを助けられるの?

20120725
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