白い。天井がどこまでも白い。いつもの起床時とは違うという違和感を感じながら、ゆっくりと先程のことを思い出してそれに納得した。そういえば倒れたんだ。だから、ここはショッピングモールの医務室かなにかか。
体の上体をおこして辺りを見渡せばベッドのすぐ隣のカウンター席にある様な椅子に座っていた丸井くんと目があった。


「よ。お目覚めか。」
「…………うん。」


声音を聞いてマズイと思った。絶対機嫌の悪い声だ。いきなり倒れたから怒っているのか。とにかく声がいつもよりさらに低い。よく見たら目つきも鋭いじゃないか。


「今日朝食食べたか?」
「ううん。」
「いきなり運動したか?」「……うん。」


まるで尋問だ。絶対私にまた何か手をだす理由を探しているに違いない。けれど寝起きのせいか別に嘘なんてつこうとも思わなかった。でも。


「じゃあそれは俺のせいか?」


この質問には答えられなかった。頷いたらなにをされるか分かったもんじゃない。先程の2つの質問とは格が違う。丸井くんが私をジッと見つめる目線が怖くて私はそっぽを向いた。


「肯定か。」
「…………。」


ヤバイ。丸井くんの目がさらにスッと細まったのを見てしまったから。
私に丸井くんの手がのびてきた。何されるんだろう。怖い。私はギュっと目を瞑った。

――――瞬間。


「ごめんな。今日だけは優しくするって決めてたのに。」


手が優しく頭を滑っていった。私はこんなこと思ってもいなくて目を見開く。私の瞳は思い詰めたような丸井くんの顔がうつって、自分の目を疑った。だけど何度瞬きをしても、状況は変わらなくて。


「いつのまにか、みょうじを大変な目にあわせてるんだよな。」


細まった目には明らかに自責の念が浮かんでいた。この人は本当にあの丸井くんなんだろうか。疑いたくなる。
スッと丸井くんはベッドに乗り出してくると、私を抱き締めた。えらく優しい。まるで壊れ物を扱うときのようだった。ごめん、だなんて小さく囁かれたときよく分からない感情が私の中にうまれたけれど、すぐにかき消した。


「…大丈夫だよ。」
「でも、ごめん。服買ってやれば喜ぶかと思ったら、結果的にみょうじに辛い思いをさせた。駄目だな、俺……。」


一生懸命だったのかな。よく分からないけれど、背伸びをして連れて行ってくれた服屋。あの急なメールも、最終的には私にいいと思って送った。壁に押し付けられたことを除くと、どれも丸井くんの努力を伺えた。


「な。すまねー。」


悲しそうなその笑みに、少し高鳴った。なんで?意味が分からない。


「ううん。」


私は顔が見られないようにうつむいた。

優しい丸井くん。いつもこんなんであればいいのに。
そう私は密かに願った。



「これ、食う?」
「うん。もらう。」


その後頭痛が収まると医務室から出してもらい、丸井くんは私をカフェに連れてきてくれた。私のとりそびれた朝食をブランチという名でとろうと丸井くんに誘われたから。
丸井くんは皿から赤く熟れた苺をつまむと私の前に差し出してきた。ありがとう、と言って私が手を差し出しても手に苺は置かれなかった。


「口開けろ。」
「は?」
「餌みてーじゃん。」


仕方なく口を開けたら指まで突っ込まれた。ちゃんと指が口から出たあとに苺を噛むと、甘さが広がった。
けれど、その指を丸井くんが舐めていたのにはすごく驚いた。

20120709
(貧血は寝不足+朝ごはん抜く+急な運動をする でなりやすくなるらしいです。
byうたプリより)
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