“明日の11時駅前こい。遅れたら犯す。”
というメールが、朝起きて携帯を見たら届いていた。受信時間は深夜。その時間は寝ていたから気付かなくても問題ない。
ただ問題なのは今の時間であって。休日に寝坊する癖のある私はそっと時計を見た。針は10時45分をさしていて、私は慌てて飛び起きた。




「あと5秒で遅刻だったぜ。」
「ま、間に合ったんだからいいじゃん。」


私は息をきらして走り、ギリギリで駅前に着いた。走りすぎて足や歯に力が入らないし、朝御飯も食べられなかった。でも今はなにも運動後だから食べる気は起きないが。


「じゃ、付いてこい。」


丸井くんは一言言うと歩き出した。私もそれを追って歩き出す。何の会話もない気まずい雰囲気。周りの人の声が大きく聞こえた。

漫画でよくあるような展開だと、私達は周りにどう見えているのだろう、なんて思うんだと思う。仮にそう思ったとしても、周りの人はこの異様な空気に気付くはず。誰か助けてくれないかな、と思いながら私はひたすら黙って歩いたら不意に声がかけられた。救世主かと思い振り向くとそこには幸村くんが笑顔で立っていた。


「やぁ、ブン太。君は…?」
「あ、みょうじなまえです!」
「そっか。俺は幸村精市。よろしくね。」


私はコクリと頷いた。幸村くんは優しい笑顔で自己紹介をしてくれたけど、学年で、いや、校内で彼は人気者だから顔や名前など知っていた。擦れ違う度に綺麗な顔だと思っていた。ただ、話すことは絶対ないと思っていたからこの時間は奇跡的なものに近い気がする。


「で、二人仲良くデートかい?」
「え、違っ、」
「そうだぜ、幸村くん。俺ら恋人だから。」


丸井くんは私の否定の言葉を肯定の言葉で遮ると、私の腰に腕を回して引き寄せた。顔が紅潮するのが自分でも分かった。前触れもなく、いきなりだったから。「ちょっ、丸井くん!」


「いくら幸村くんでも俺のなまえに手だしたら許さないから気をつけろよぃ?」


そんな思ってもいないだろうセリフをはくと、ウィンクをした。それは怖いね、なんて幸村くんは笑ってから私をスッと見据えた。口元は笑っているけど目が笑っていない。この人にも裏がある。私はそう感じながらその視線から目をそらした。


「いつか助けてあげるからね。」
「え?」


一瞬低い声で短く告げられたその言葉に私は目を瞬かせた。幸村くんが何故知っている…?もしかして今までの行為をどこかで見られた?でも私達以外人はいなかった。なら丸井くんが自らのことを幸村くんに話したとか?……いや、それはないか。


「なに二人で話してるんだよぃ?」
「いや、髪にゴミが付いてたっておしえてあげたんだ。」
「ふーん。」
「じゃ、俺はそろそろ。じゃあね。」


去っていく後ろ姿を見送りつつ溜め息をついた。結局救世主にはならなかった。でもいつか助けてくれるなんて言ってくれて、嬉しかった。でもこれはそういうゲームなのだから仕方ないのかとも思いはじめてきてしまった。それが丸井くんの思うつぼな気がしてならない。


「ほら、俺らも行くぞ。」
「うん。」


幸村くんがいたときよりワントーン低い声に催促されて、私はまた歩き出した。




「好きなの選べ。」
ぶっきらぼうに言われたのはショッピングモールの服を中心に売っているフロアでだった。華やかで、でもなかなか手を出せないような値段のブランドばかり。


「え?」
「だから、俺が買ってやるって意味。選ばなかったら犯す。」
「でもっ!」


そんなの申し訳なさすぎる。服なんと高価なもの、親に買ってもらうならまだしも、クラスメートに買ってもらうのは本当にありえない。


「なら侵される?別にここで侵してやってもいいんだぜ?」


強い力で壁に押し付けられた。キスしてしまいそうな程顔が近い。丸井くんはカーディガンの前のボタンを1つ、また1つと外していった。


「ちょ、ここ人前っ!」
「なら選べ。」


私の前にある選択肢はYESorはい。いや、断るという選択肢もあるけれど、私がそれを選ぶ可能性はほとんど0に近い。今この体勢を人に見られていないだろうか。見られていたとしても認識はバカップルか。それでも犯されるなんて嫌に決まってる。
私はじゃあ安いのを選ぼうと無理矢理丸井くんをおしのけようとした瞬間、不意に視界がぐらついた。同時に襲ってくる頭の奥からくるような頭痛。


「っ………。」
「ちょ、お前顔真っ青…」


なにもかも遠い。ゆらりゆらりと揺れる視界の中で丸井くんを見つけた。そしてそれを最後に私は意識を手放した。


20120705

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