――――……ンポーン…、
唐突に聞こえてきたチャイムの音にふと目覚める。
ベッドから起き上がって腕時計を確認すると十九時を十分程過ぎてしまっていた。
軍に入ってから寝坊どころか遅刻など一度もなかっただけに、エリスはギョッとすると慌てて玄関扉へ向かう。
開けてみれば案の定少女が廊下に居た。
目が合うとホッとした表情を見せ、それから少し頬を赤く染めて俯く。
「すみません、時間になっても来られなかったので心配になって来てしまいました。」
パーカーの裾を握ったり離したりする少女の姿に一瞬クラリとしてしまう。
照れているのが丸分かりで、素直過ぎる反応が可愛らしい。寝起きで何時もより頭の働きが鈍くなっているところにそれは反則だ。
「…いや、私こそすまない。寝過ごしてしまった。」
「いえ、大丈夫です。気にしていませんから。」
顔を上げた少女はクスクスと小さく笑って手が伸ばされる。
何だと思って見ていると、その細い手が頭に触れた。
撫で付けるように髪に触れてから離れて行く。
「寝癖、ついていましたよ。」
慌てて起きたので鏡も確認していなかった。
それに気付いて乱れていた服を整えると少女は穏やかな笑みを浮かべ、「寝起きですが、夕食は食べられますか?」と問い掛けてくる。
問題ないと頷き返し、ポケットの中のカードキーを確認してから部屋を出た。
夕食時のせいもあって少々レストランは混んでいる。
出来る限り空いているレストランへ入ったが、空いている席は少なかった。
なんとか席につき、メニューを見る。そして少女が固まった。
「あ、あの…」
「?」
「メニューを読んでもらえませんか…?その、文字が読めないんです、」
恥ずかしそうにそう言った少女には申し訳ないが噴き出してしまう。
確かにメニューに書かれている文字は英語でも、ましてや少女の母国語でもない。
しかしメニューを見るまでそれに気付かなかったのだ。そこいら辺には散々この島の文字が書かれていると言うのに。
笑ったせいか少し不機嫌そうにムッとした表情をされてしまったので、一度謝罪の言葉を述べてからメニューを一緒に見ることにした。
南国らしくココナッツを使ったデザートなどもあり、メニューは予想していたよりも豊富で悩んでいるようだ。
結局少女は写真が載っていたロコモコを頼むことにし、エリスは肉や魚などを葉で蒸したラウラウにした。
ボーイが来て注文を受けるとすぐに立ち去る。
そうして先に頼んだ飲み物がきた。
少女はメロンソーダー、自分は何時も通りコーヒー。
「メロンソーダーって時々飲みたくなるんです。」
この着色料の色鮮やかさ恋しくなるんですよね。
そう言ってグラスの中にある鮮やかな薄緑色のメロンソーダーをグルリとストローで一度かき混ぜる。
涼しげな色合いが綺麗だ。
ぼんやりと少女を眺めている間に頼んだ料理が運ばれてくる。
あまり食に関心はないエリスでも素直に美味しいと思える味だった。Prev Novel top Next