「どうだ?」
「サイコー!さっすが泰河ー!!」
「お前に聞いてねぇっつの。」
気になるのか前髪を弄っている少女に泰河は問うた。
代わりのように答えた銀二にもきっちり突っ込みを入れておく。
少女は柔らかくふにゃりと笑うと、少し気恥ずかしげに言う。
「…ありがとう。すごく、嬉しい…。」
「おぅ。」
なんだかんだ言いつつ、他人に礼を言われるのは嫌ではない。
特にこんな極普通の一般人相手だと尚更照れも入る。
銀二と手を繋ぎながらも何度も頭を下げて礼を述べてくる少女に若干苦笑が漏れてしまったが、泰河は軽く手を振った。
幹部たちは少女の劇的な変化に驚いて、声も出ない者もいれば、可愛いと呟く者もいた。
可愛いと思うのは勝手だが相手が銀二である以上は無理だろう。
その後、突然銀二が「トランプやろう!」と言い出して、必然的に全員がやることとなった。
ババ抜きから始まりスピード、大富豪、七並べなど様々なものをやっていたようだったが泰河はアッサリとその輪から抜け出てVIPルームを後にする。
勿論、言うまでもなく志貴のところへ行くのだ。
既に一時間以上経ってはいたもののソファーの上で相変らずぐっすりと眠りこけている。
時刻を確認すると四時半、もう起きて少し何か食べさせてから学校へ送って行かなければ遅刻してしまう。
「志貴、起きろ。」
小さな肩を軽く揺すると毛布の中から微かに声がした。
もぞもぞと毛布の塊が動いたかと思うと、ひょっこり出てきた黒い瞳がしっかりと泰河を見る。
「…おはよう?」
「あぁ。…軽く飯食え。学校行くんだろ?」
「ん、行く。」
起き上がるのに泰河が手を貸してやれば志貴はぎゅっと握り返してきた。
表情は相変らず無表情だったが、黒い瞳が微かに揺れている。
どこか不安げなそれを安心させてやるために額に軽くキスを落とし、カウンター席へ連れて行く。
朱鷺が何か騒いでいたが聞こえないフリをして隣りに志貴を座らせた。
マスターが出してきたのはチャーハンだった。それも野菜たっぷりの。
何時も決まったものしか口にしない志貴を思っての食事なのだろうが、微かに志貴の眉が一瞬だが下がったのを見て、泰河は思わず笑ってしまいそうになった。
…もしかして野菜嫌いなのか?
様子を見ていたが、どうやら野菜は野菜でもグリンピースが嫌いだったようで緑のそればかり皿の端に寄せている。
「おい、それも食え。」
そう言うと不思議そうに小首を傾げながら見上げてくる。
「グリンピース。」
「……嫌。」
「だから何時までたっても小せぇんだよ。」
「………。」
小さい、という部分に僅かながらだが不満げな顔をした。
志貴の身長は百四十にも満たない。
百八十の泰河からすると子どものように小さいのだ。
しばらくの間ジッと睨み付けるようにグリンピースを眺めていた志貴だったが、チャーハンと共に無言で食べ始めた。
不味かったのか、すぐに飲み物で流し込もうとする辺りはまだまだ子どもっぽい。
きちんと食べ切った志貴の頭を泰河が撫でてやれば、黒い瞳が気持ち良さそうに細められる。
「行くか。」
「ん。」
立ち上がった泰河に志貴も席を立ち、その後ろをトコトコと着いて行く。
そんな光景を店内の誰もが穏やかな表情で見送った。Prev Novel top Next