パチンと携帯を閉じた愁が泰河へ笑いかける。
「アワリティアもすぐに来るそうです。パーティーだと言ったら喜んでいましたよ。」
アワリティア――強欲――は傘下のチームの中でも中間ほどの力を持つグループだが、傘下の中では最も血気盛んなグループでもある。
喧嘩となれば必ず参加し、呼ばなければ文句を言うくらい喧嘩好きの集まったグループだ。
「アイツらは血の気が多いからな。」
「おやおや、貴方だってそうでしょう?ハデス。」
クスクスと笑う愁に違いないと口角を上げて笑う。
事の次第を理解していない志貴だけが首を傾げたまま「パーティー?」と問う。
それに銀二がニッと笑って頷いた。
「うん、パーティー。でも、たぶんしーちゃんが考えてるのとは、ちょーっと違うカンジだよぉ〜。」
「お祝い?」
「違うちがぁーう!パーティーは、喧嘩のコト。下克上セーシンの強い子たちを、先輩のオレらがやさしーく注意してあげちゃうだけ!」
「警察、来ない?」
「もち、来るよー。でも逃げればイイんじゃね?」
ケラケラ楽しそうに笑う銀二に志貴は何やら納得したのか、よく分からない返事を返す。
そうしてまた、とんでもない事を言い出した。
「行く。」
端的で、けれど目的の酷くハッキリとした言葉だ。
思わず見下ろせば真っ黒の瞳と視線がかち合う。よく視線が合うなと思いながら泰河は志貴に問いかける。
「分かってんのか?喧嘩だぞ。」
「ん。」
「遊びとは違う。怪我しても知らねぇぞ?」
「へいき。」
鋭く見つめてみても全く視線を逸らさない志貴に、やがて泰河はふっと小さく息を吐いてから仕方ねぇなと頭をガシガシと掻いた。
もしも志貴が危なくなったら周りの誰か、もしくは自分が助ければいいだろうと考えてから顔を上げる。
俺から離れるなよと言えば、うんとしっかり頷く志貴に泰河はもう一つ溜め息を零した。
それから泰河が立ち上がれば銀二と愁も立ち上がる。
室内にいた不良たちも幾分楽しそうな笑みを浮べている。
これから起こす事を考えているのだろう。
「さて、お礼参りでも行きましょうか。」
愁の言葉が合図だったかのように誰もが部屋を出て行く。
それらを見送った泰河が未だ座ったままの志貴を立ち上がらせる。
薄着の志貴に一度逡巡してから愁に上着を持ってくるよう言いつけ、泰河は先に部屋を出た。
ついて来ようとした志貴に愁から上着を着せてもらってから来るように言い、騒がしいクラブ内を足早に通り抜けて外へ行く。
七時半を過ぎた外は暗く、また少し空気が冷え始めていた。
ポケットから煙草を出そうとしてVIPルームのテーブルの上だと思い出して舌打ちを一つ。
壁に寄りかかって志貴を待っている間に既に‘パーティー’の支度を済ませたチームの者たちがそれぞれの愛車に乗って待機している。
「…忘れてた。」
店から出てきた志貴が差し出してきた煙草に思わず見やり、それから受け取って上着のポケットへと押し込む。
細身の革ジャンを着ているのを確認してから顎でバイクを示せば微かに志貴は目を細める。
泰河が先に乗り込み、それから志貴が乗って、しっかりとしがみ付く。
走り出した泰河に続いて、愁を乗せた銀二が追い、更に後ろへチームの不良たちが続いていく。
さながら暴走族のような姿に人々が振り返るがそんなことはお構いなしだ。Prev Novel top Next