ようやく落ち着いた頃、気持ち良いくらい勢いよく扉が開かれた。
いわずもがな銀二である。
「やぁやぁやぁやぁ、お疲れぇ〜。元気かぁーい?オレってばチョー元気ぃ!」
相手の返事を待つことすらしない言葉にそこかしこから苦笑が漏れる。
大きな音に志貴だけが無表情のまま、けれど目を何度も瞬かせて銀二を見やった。
泰河の横に座る志貴を見ると一瞬キョトンとしたものの、すぐにニッコリ笑みを浮べて泰河とは反対側の志貴の隣りに座る。
「ねぇ、しーちゃんって呼んでイイ〜?」
「ん。」
「しーちゃんはぁ、喧嘩とかってできんのぉ?」
「できない。」
そっかぁ〜と言いつつ銀二はチラリと泰河を見た。
今集まっているのはこれから行う‘パーティー’についての話で、志貴を席から外さないのかとその目は聞いているようだった。
別に問題はねぇよと煙草へ火を点ければ銀二は軽く肩を竦めておどけるように笑う。
「そっかー。ざーんねーん。殴るのってけっこー楽しいよぉ?人殴ったときの感触とかオレ好きだけどなぁ〜。」
「あんま変な事教えてっとトキに文句言われるぞ。」
「べっつにヘンじゃないじゃーん!オレは事実を教えてるだけぇー。」
頭上で交わされる会話をぼんやり聞いていた志貴を挟んでそんな会話を二人はしていたが、扉が開いて全員が集合すると話すのを止めた。
代わりにずっと向かいに座ってニコニコと笑みを浮べていた愁が口を開く。
「実は今日の昼過ぎ頃に私たちのシマで事件が起きました。色々と事情が込み入っていたようですが、簡潔に言うならば傘下のグループが二つ程壊滅状態になっています。」
愁の言葉にザワリと室内がざわめく。
泰河と銀二が率いるこのチームにはいくつかの傘下があるが、どのグループもそれなりに力のあるものばかりだ。
その内二つが一日で潰されるなど笑い事ではない。
どう考えても彼らに喧嘩を売っているか、宣戦布告しているとしか考えられない。
「残った奴らはどうした?」
「大半は入院していますが、怪我の程度が軽かった者はこちらへ来ています。」
「これってどう考えても喧嘩売ってるよねぇ〜?」
「十中八九、そうでしょうね。」
困ったものです。そう言いながら組んだ足に頬杖をついてワザとらしく溜め息を吐く愁に、銀二が楽しげに笑った。
そうして二人は泰河へ視線を滑らせる。
「ヤっちゃう?」
至極愉快そうに、期待を込めた眼差しを向けられた泰河はコキリと首を鳴らした。
「そうだな。動かさねぇと体鈍るしな。」
「んじゃパーティーしちゃおっか〜!」
「どれ程連れて行きますか?」
「とりあえず潰された傘下の残りと、アワリティアでも呼んどけ。」
「はい。」
泰河の言葉に愁がすぐさまどこかへ電話をかけ始める。
それを見ながら煙草を口に銜えかけて、ふと志貴がいることを泰河は思い出した。
横からジッと見つめられて何とはなしに煙草を箱へ戻すと不思議そうに志貴が首を傾げる。
その様子に室内にいた不良たちが微かに目を見開き、銀二が「あははー、泰河ってば気にしてやんのぉ〜!」と笑う。愁は関知せずといった様子だ。
笑う銀二を一睨みしてから泰河は煙草の箱を本同様にテーブルへ投げ捨てた。Prev Novel top Next