二人が食事を終えた頃には丁度昼過ぎで、髪を梳かしたり整えたり身支度を済ませてマンションを後にする。
情事のせいか億劫そうに歩く志貴を泰河が単車まで抱えて行ったのは言うまでも無い。
昨夜通ったルートを戻って店へと向かう。
店の前に着くと泰河にとっては見慣れた他の単車があり、先に下りた。
志貴からヘルメットを取って入り口にいた不良に単車とヘルメットを任せ、志貴を肩に担ぐようにして店へと入る。
カランと鳴ったベルに店内にいた数人が振り返って一番最初に朱鷺が叫ぶ。
「志貴!」
泰河は肩に担いでいた志貴をカウンター席に下ろして隣に座った。
慌ててカウンターから身を乗り出しながら朱鷺はペタペタと志貴の頭や肩を触る。
「大丈夫か?痛い所とか。」
「腰痛い。」
「泰河ぁあぁっっ!!」
「…うるせぇな。」
志貴のあっけらかんとした言葉に朱鷺が叫び、泰河は迷惑そうに耳を押さえた。
他の者はどこか呆れた表情でその光景を眺めている。
男の家に女が行って、しかも泊まって来たのだからいちいち驚くような事じゃあないだろう。
それが見ていた者たちの考えである。
だが朱鷺は手が早いだの、妹はセフレじゃないだのと泰河に言い募った。
分かってるとやや投げ出すように言う泰河と、自分のことでありながら完璧にスルーしてジュースを飲んでいる志貴。
しかし意外なことに口を開いたのは志貴だった。
「何で怒るの。」
「何でって…あのなぁ志貴、お前初めてだったんだろ?」
「? 何が?」
「だから、その、」
もごもごと口ごもる朱鷺に変わって泰河が「セックス」と言うと、朱鷺がこら!と怒る。
そういった事に疎い妹に変な事を教え込まれたくないのだろう。
残念なことにもう手遅れなのだが。
「うん。」
「良かったのか?初めてってのは好きな人とするもんだぞ?」
「泰河は好き。」
「そうだ、だから………え?好き?」
「うん。」
志貴の好きという言葉には流石に絶句した顔で瞠目した。
好き、というのが友人の好きなのか恋愛の好きなのか、朱鷺には判断できなかった。
親愛の好きを勘違いしているのではとも思ってしまう。
泰河は感知せずといった様子でミネラルウォーターを仰る。
「好き…そうか、好きなのか…。」
「うん、だからいい。」
「…うーん、い、良いのか…?」
「イイんじゃなぁい〜?本人がイイっていってんだからさぁ。」
悩む朱鷺に銀二がケラケラと笑いながら言う。
志貴ももうそれ以上聞く気はないようで、店に置きっ放しにしてしまった本を読み返していた。
横から泰河が覗き込むとカウンターに広げて見やすいようにする。
誰かと一緒に何かをしている志貴を見ながら朱鷺は軽く息を吐き出した。
もう少し普通の関係でいてくれれば良いものを、これでは志貴が色々と恋愛や恋人につちて勘違いしてしまいそうだ。
朱鷺の心配を余所にうとうととし出した志貴に気付いた泰河がカウンター席からグループ席へと抱えて移動させる。
椅子に横にならせて眠らせる様子に銀二と朱鷺は顔を見合わせた。
「なんかぁ泰河もまんざらでもないってカンジぃ〜?」
「だなぁ。まぁ志貴が幸せなら俺は良いけど…、」
「大丈夫っしょー。泰河ってあぁ見えて結構世話焼きだしぃ、妹ちゃんのこと気に入ったって言ってんだからぁ。」
「…そうだな。」
好い加減兄離れか?などと考えながら、志貴を寝かし付ける泰河を朱鷺は静かに見つめていた。Prev Novel top Next