あれから数週間がたった。なまえにとって第一印象が最悪だった及川もどうにか警戒を解かれ、むしろ仲良くなっていた。及川と一緒にいる時間はきっと岩泉の次に多いだろう。その位である。

「なまえちゃん今日はお弁当?」

『ごめん今日クラスの子に誘われてるから一緒に学食行ってくるよ』

なまえがそう言うとえーっと及川が言った。

「じゃー岩ちゃんのとこ行ってくる」

『行ってらっしゃい』

私はもしこれが誘われたのが岩泉なら及川も誘っていただろう。しかし私が一緒に食べるのは面倒な女の子達だ。面倒な。ここがポイントである。

学食に着くや否や、なまえは質問攻めである。

「みょうじさんは及川くんのこと好きなの?」

『友達としては別に普通に好きだけど。恋愛感情ってことで聞いてるなら全力で否定させてもらうよ』

なまえがそう言うと、なまえを取り囲む女子たちは息をついて安心しきった顔になる。

「よかった〜」

小さな可愛らしいなんて言葉が似合う女の子が言った。こんなことが起きるのは始めてではない。複数回起きている。色々な女子グループに呼ばれて、及川との関係を問われ、私の感情の確認をされ、勝手に不安になった女子たちが勝手に安心して。
及川と話すのは嫌いじゃない。でも及川と一緒にいてこういう尋問が始まったのは正直いうと嫌いだ。

私は及川と一緒にいたいからいるだけなのだ。もし及川が来なくなっても自分から行くかもしれない。でもそれは女子同士のそれと変わりはない。及川と仲良くしているのが楽しいから。楽だから。それ以外にそんな隠したい理由なんてあるわけもなかった。


「なまえちゃん」

教室に帰ると及川がにこにこしながら話しかけてきた。

『なに?』

「来週の週末暇かな?」

『予定はないけど…』

「なら俺たちの試合見においでよ」

『え?』

すっとんきょうな声が出た。すると及川はクスクス笑った。

「バレー嫌いだったりする?」

『いや普通に好きだけど』

「なら来てよ」

及川の両目に私が映っていた。

『うん。行くよ』

及川は満足そうに笑う。

「やった!俺のかっこいいとこ見たらなまえちゃん俺のこと好きになっちゃうね!」

『寝言は寝て言うものだよ』

次の授業の準備をしながらそう返事をした。

岩泉のバレーしてるところも見たことなかったし…。そんなことを思って、頷いた。




俺は、顔が整っている。バレーも上手い。背も高い。こんなステータスがあれば、女子たちが周りにいるってことは普通だった。こんなこと言ったら岩ちゃんに怒られちゃうけど。まぁ来る者拒まず去る者追わずで俺も何人か女の子と付き合ったりしたが、結局長続きしたことがない。俺も彼女のことが本気で好きじゃないし、彼女だってバレーばかりに打ち込む俺にそのうち耐えきれなくなるのだ。まぁそれなりに青春ぽいしいいかな、なんて浅はかなことを考えていた俺の前についこの間現れたのが、みょうじなまえだった。

もう一度言うが、俺は女の子たちに人気だ。だからこっちから行かなくても俺の周りに女子はたくさんいた。でも、なまえちゃんだけは違った。初めてあったとき、まるで俺に興味がないってことを隠そうともしなかった。俺はまあ女の子に人気があると言っても、そんなとこが嫌だと嫌う子もいた。正直言えばその両極化だ。

だから、俺に興味がないなんて子は、初めて見た。

だから、俺はこの子に興味を持った。

だから、俺はこの子をもっと知りたいと思った。

今は仲良くなった。他愛のない話しかしないけど、なまえちゃんは俺に自然に笑いかけてくれる。仲良くなれば、他の女の子みたいに色目を使った下心みえみえの媚びも少し位は出るんじゃないかって思ってたけど、本当にこの子は俺のご機嫌をとろうとする姿なんてこれっぽっちもなかった。

「岩ちゃん聞いてよ!なまえちゃんがね、」

こう岩ちゃんに話しかければ、またみょうじか!なんて怒られた。だってあの子面白いんだもの。もっと一緒にいたいって思わせる魅力があの子にはある。

「うん。今度の試合頑張っちゃお」

誰もいない部屋で一人呟いた。烏野。かわいいかわいい後輩の天才セッターがいる。トビオをけちょんけちょんにするところ、なまえちゃんにしっかり見ててもらわなきゃ。そして午前までだったはずだから一緒にお昼食べに誘おう。岩ちゃんは誘ってあげない。

俺は一人口角を上げてベッドで瞼を閉じた。

隣にいるのが一番自然


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