とある春の日のことだった。青葉城西高校。ここの下駄箱前の人だかりの中に私もいた。正直こんなにたくさんの人見てるだけで嫌。人混みは嫌いだ。
クラス分けの結果をようやく見つけて、私はそのまま自分の教室へ向かった。廊下にはどうやら片想いをしていたのか、及川くんと離れちゃった!なんて泣いてる女の子がいた。騒がしい人だなんて思いながら、教室に入る。人はまだまばらだった。
自分の席を確認する。そして私の名前の隣に書かれていた名前に私はえ、と思わず声を漏らした。及川徹。間違いない。さっき廊下で泣いてた女の子の想い人だろう。私も噂には聞いていた。バレー部部長でイケメンで高身長で。よく周囲の女子が騒いでいる。私はまだよくどの人だかわかってないけど。
座りながらそんなことを考えていたその時。
「あれ?お隣?よろしくね〜」
爽やかそうな笑顔で私に話しかけてきたそいつは紛れもない及川徹だろう。
『うん。よろしく』
一体どんな人なんだろう。そんなことを思っていたら、甲高い女子たちの声。
「及川くーん!クラス離れちゃったね〜」
「私また一緒!よろしくね〜」
及川の周りに人だかりができた。正直イライラする。だから私は人混みは嫌いなんだってば。
「離れちゃったか〜。でもこれからもよろしくね〜。君はまた同じクラスでよろしく」
再びあがる甲高い声。あまりのうるささに、私は席をたちその場から離れた。
てか何あれ。ただのタラシじゃん。イライラしながら廊下を歩く。寒い仙台では桜が咲くにはまだ早かった。蕾が少し膨らんでいる。そんな状態だ。
チャイムが鳴ると同時に私はクラスに戻った。及川の周りの女子が名残惜しそうにお別れしていた。毎日会えるんだから別にそんなに名残惜しそうにしなくても…なんて思いながら席に戻る。
「ねぇねぇ。君名前なんて言うの?」
及川が話しかけてきた。
『みょうじなまえ』
「ふーん。俺のことわかる?」
うわ、何このナルシスト的な質問。
ひぃー!と内心ドン引きしながらまあ名前くらいは、と返した。
その時。タイミングよく先生が入ってきた。二人の会話も自然に終わる。
「えー早速だが委員会と係決めるぞー」
先生が言った。学級委員を決めるらしい。
「みょうじさんやらない?」
及川徹が私に提案してきた。
『やらないよ。及川がやればいいじゃん』
「じゃ、俺とみょうじさんね」
ちょっと待ったという声は、及川の俺とみょうじさんやります!という声にかき消された。先生はありがとうと言って、私と及川の名前を黒板に書いていた。他の生徒も拍手してる。ふざけるなと私が及川を睨むと、及川はいいじゃーんやろうよーと言ってきた。
「この空気じゃやりませんなんて言えないでしょ?」
『及川のせいでしょ』
何で出会って早々こんなに巻き込まれているのか。
「及川って呼んでくれるの?徹でもいいよ?」
『及川でいいよ別に』
「じゃー俺はなまえって呼ぶね!」
もう勝手にしてくれと言う言葉は出なかった。私と及川で司会進行しなければならなかったからだ。仕方なく前に出て司会進行を勤めること30分で委員会と係は決まった。これからは、始業式だ。今日はもう始業式でおしまいだ。
「なまえちゃんまたね」
始業式が終わって私の肩を叩いてきたのは及川で。後ろを振り返ろうとしたら、こっちって言われてそう言われた。たしかに笑ってるその姿は爽やかで絵になると言えばそうだが。でも私はなんだかめんどくさいことになりそうな気しかしていなかった。
嫌な予感ほど当たるものさ