同じだ
なまえがスクアーロの部下となって一週間たった。結局なまえは、あの日書類も終わらせ任務もしっかり全うしたらしい。
今日は書類整理だ。スクアーロ隊長の机の上の書類は幾分か減った。だが、消費のスピードがベルさんの数倍なんてレベルでなく速いスクアーロ隊長でも、書類の供給のスピードもベルさんの数倍なんてレベルでない速さなのである。書いても書いても机の色なんて見えない。真っ白な書類の色ばかりだ。
私もやれる限りやっているつもりだが、なかなか書類の量は変化しない。
『失礼します』
スクアーロ隊長の自室のドアをノックして、部屋に入りとりあえず出来上がった書類を渡す。昨日の夜敵地で剣を振り回していた人物が書類を睨み付けて唸っている。同一人物に見えないと言えばそうなのだが。
『…コーヒーでも淹れますか?』
「…頼むぜぇ」
私は一度隊長室から退室して、コーヒーを淹れて帰る。
『どうぞ』
書類にまみれる机の上に置くことはできないので、近くの小さなテーブルにおいておく。冷める前に飲んでもらえればいいのだが。
「ありがとなぁ」
やっとスクアーロ隊長が私の方を見た。目があって、何故か目をそらさないスクアーロ隊長。
「…お前体調悪ぃのかぁ?」
スクアーロ隊長が言った。
『え?そんなことはないですよ?』
実はそんなこともあったのだが。最近ベルさんの時よりもずいぶんと仕事が増えたので、休む時間が減っていたのだ。疲れがたまったからなのか少し風邪っぽい。
「…こっちこい」
私は言われた通り傍による。すると、スクアーロ隊長の額が私の額に触れた。
『ちょ!隊長!!!!』
「お前熱あるじゃねぇかぁ!!」
スクアーロ隊長と私の声がかぶる。え、熱があったのかなんて思った。
「しかも顔も赤ぇしよぉ」
それは確実に隊長のせいなのだが、言わないでおいた。
「…今日は休めぇ。少し無理させ過ぎたなぁ」
『でも隊長こんなに仕事あるじゃないですか』
「こんなの俺の手にかかればすぐ終わるぞぉ」
『無理ですよこの量は』
チィと舌打ちの音が聞こえた。そして、気づけば隊長に担がれていて。
『え』
「いいから休めって言ってんだろうがぁ!」
耳元で響いた隊長の大声。頭に響く。この時やっと気づく。ああやっぱり休まなきゃダメかと。
『わかりました』
「…わかりゃあいい」
そう言って隊長は歩き出した。
『隊長、自分で戻れます』
「いいから黙ってろ」
担がれた状態からお姫様だっこに変わった。このまま廊下に出ようという隊長。顔が更に熱くなった。
黙ったまま結局私の自室まで隊長が送る。ベッドに下ろされた私。隊長の髪が私の頬に触れた。ただ、それだけなのにまた体温が上がった気がした。
「何かいるかぁ?」
『…出来たら飲み物だけください』
「飯は食ったんだろうなぁ」
『はい。あ、あと体温計もお願いします』
すぐ戻る、と隊長は部屋を出た。すごく申し訳ない。幹部補佐を助ける幹部。笑えない。ちゃんと隊長が戻ってきたらお礼を言って謝ろうと思った。
風邪なんていつぶりだろうか。結構体の丈夫さには自信があったのに。いつもと何も変わらない部屋。でも風邪という事実だけですごく寂しく感じる。風邪を引いただけでこんなに寂しく感じるのだから、私って弱い人間だよなぁなんて思う。人を殺す技術をたくさん身に付けても所詮私は私だ。
隊長は冷たそうなスポーツドリンクをくれた。そして腹が減ったら食えと冷蔵庫にゼリーを入れてくれた。体温計を渡される。スイッチをいれて計り始めると、隊長がベッドの横にある椅子に腰かけた。
『隊長、仕事に戻らないんですか?』
「とりあえず何度あんのかは知りてぇ」
そう言って隊長は、そのままそこにいた。
『隊長、すみません。ごめいわくかけて』
段々言葉もたどたどしくなってきた。
『やっぱり、戻ってください。うつしたくないんです。隊長に』
そう言うと、隊長はため息をついた。
「お前そんなに俺がここにいるのが嫌なのかぁ?」
『そ、そんなことないです!』
むしろ逆だと思ったが、スクアーロ隊長は怒っているように見えた。
「こんなときに言うのもあれだが、お前が入ってから随分俺の仕事も楽になった。まだ一週間しかたってねぇが感謝してる」
隊長の目がまっすぐ私に向かっていた。なんだかとても恥ずかしい。
「でも無理はすんなぁ。体調崩してなんかいられねぇからなぁ」
『すみません』
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