あなたはまだ知らなくていい
「…やるじゃねぇかぁ」
『何がですか?』
スクアーロ隊長の隣を早足で歩く。脚の長さが違うことに恐らくスクアーロ隊長は気づいていないのだろう。
「跳ね馬を丸め込みやがった口で何言ってんだぁ」
『まぁ噂があることは本当ですよ。でも使いどころかなっては思ったんです。実際あそこのファミリーをよく思ってない人は本部でもヴァリアーでもたくさんいるので』
ハッなんてスクアーロ隊長は笑った。ニヒルな笑顔である。
「気に入った」
『何がですか?』
「ベルがお前を気に入ったのもわかるぜぇ」
隊長のはすごく楽しそうに笑っている。でももったいないお言葉だ。まさか、スクアーロ隊長にこんなことを言ってもらえるなんて思ってなかったから。
『ありがとうございます』
私は自然と顔が綻ぶのがわかった。でもこればかりはどうしようもない。それほど、嬉しかったのだから。
私が最初にスクアーロ隊長を見たのは、今から15年ほど前だ。まだ大したスキルなんてほとんどない頃。私のいたファミリーが同盟ファミリーの奇襲にあったのだ。私たち子供は避難するよう言われていたが、一人が怪我をして、その一人についていた私は逃げるのに遅れてしまっていたのだ。医務室から出れば、強い血の臭いがしていた。なれない臭いに頭がくらくらした。
「オイ」
後ろから聞きなれない声。
「死ねぇ!」
振り返ったと同時に、響いた銃声。撃たれたと思った。でも、私の体にももう一人の体にも銃弾は当たらなかった。
「う゛お゛ぉぉぉい!弱ぇぞぉ!」
当時はまだ今ほどまでは長くなかった短い髪。義手についた剣が銃弾を食い止め、撃ったやつを叩き斬った。私と一緒にいた人が泣き出す。
「もう大丈夫だぁ。安全なところに早く逃げろぉ」
私たちの近くにその人が来る。
「お前はもう泣くなぁ。お前は手負いのやつと一緒にちゃんと逃げ出せよぉ」
その人の手が私ともう一人の頭をポンポンと撫でた。その顔はちょっと困ったような顔をしていて、今思うときっと子供が苦手だったんだと思う。
そのまま銀髪のその人は私たちの進行方向とは逆に駆け出したのだ。その後ろ姿に心引かれたが、手負いの仲間といたし、何より自分は無力だったことをわかっていた。この後は何も問題なく避難に成功し、一段落ついた後、彼について調べたのだ。そしてあまりに有名だったその人はすぐに知ることができた。
ボンゴレファミリーの暗殺部隊、ヴァリアー幹部。スペルビ・スクアーロ。二代目剣帝。
知れば知るほどあの人と一緒に働きたいと思った。あの人の役に立ちたいと強く願った。そして私はヴァリアーに入るため努力して、今ここにいる。
夜は暗殺の任務だ。私はスクアーロ隊長が剣で戦う人と知って、近距離による戦いに適した人と知って、私は中・長距離に適した人材になろうと銃やナイフを武器としてきた。ナイフはベルさんにもたくさん教えてもらった。銃だってたくさん努力して、使える人間になろうとしてきた。その努力をスクアーロ隊長に認めてもらいたい。スクアーロ隊長のために使いたい。私はそう思って、夜からの任務に期待を膨らませるのだった。
でも、まだ私の中に眠るあなたへの気持ちは知らなくていい。いつか、運が良ければ、いつの日か届けばいい。その位でいいのだ。隊長はまだこの気持ちを知らなくていい。
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