震える手
ついに念願が叶った。
「お前はこれからカスの下で働け」
『はい!』
ザンザス様の命で私は本日付でベルさんの部隊から抜けて、スクアーロ隊長の下で働ける。勿論ベルさんの下で働くのも働きがいがあったし、楽しかったが私がついていきたいと思っていたのはスクアーロ隊長だったのだ。幹部補佐として、これからはますます頑張っていかなければ。
ドキドキと高鳴る胸。隊長室の前で書類を持ったまま、震える手を抑えようと両手をさすった。
「何してんだぁ?」
『わぁっ!!!』
自室にいるものだと思っていたスクアーロ隊長に話しかけられた。びっくりして大声を出してしまう。
「お前ベルのお気に入りだろぉ?」
『あ、あの!本日付でスクアーロ隊長の部隊に配属されましたみょうじなまえです!』
「何ぃ?お前が俺んとこにぃ?」
スクアーロ隊長は少し頭を抱えた。
「絶対あんのクソガキに何かされるじゃねぇかぁ…」
『え、ベルさんですか?』
「ああ。まぁいい。今ここに一緒にいるの見られると面倒だから部屋に入れぇ」
スクアーロ隊長がドアノブを回す。スクアーロ隊長と会ってから私がためらっていた時間の3分の1以下の時間でこの部屋に入ることになった。
部屋の中はシンプルで、剣に関するものと多くの本、そしてたくさんの書類しかないのだが、書類の量が常識の量を越えている。
『え、今までスクアーロ隊長こんな量の書類をやってたんですか!?』
「ああ。あのクソボスが書類はめんどくさがってなぁ」
いつも酒飲んでるだけのくせによぉなんて愚痴をこぼすスクアーロ隊長。
『わ、私手伝います!こんな量一人でやってたらスクアーロ隊長倒れちゃいますよ!』
「そうかぁ?もう何年もやってるから慣れたぞぉ」
慣れって怖いなぁなんて思った。
『隊長にしか出せない書類とかも多いと思うんで私にできるのがあればそれは私がやります!ベルさんに書類の管理はほとんど任せられてたので書類なら大丈夫です!』
スクアーロは、ああだからあのクソガキの班の書類は割と綺麗だったのかと納得した。てかアイツ仕事しやがれ…とイラッともした。
「お前なら任せても大丈夫だなぁ。じゃこの辺頼むぞぉ」
机の上の10分の1程度の書類を渡された。でもこれではスクアーロ隊長の休みがまだまだ足りない。そう思ったのが顔に出たのか、スクアーロ隊長が言う。
「まだちゃんとなまえがどこまでできるかしらねぇからなぁ。とりあえずそれだけ頼んで、もっとできるようなら頼むぜぇ」
『はい!』
スクアーロ隊長から書類を受けとる。そして自分が持っていた書類の話をする。
『あとボスから伝言です!明日の夜の任務の話なんですけど』
「明日の夜だとぉ!?」
隊長が書類を見る。そして大きく舌打ちをした。
「…これで明日は朝から晩まで任務だぁ。お前急だが明日出れるか?」
『はい!大丈夫です!』
「よし。お前の力量が見てぇ。明日朝から晩まで付き合えるか?」
『はい!ご同行させていただきます!』
少し堅いなまえの動きにスクアーロは考える。あまりここまで堅くされると俺も気持ちが休まらねぇなぁ…。
「…お前もうちょっと言葉雑でいいぞぉ。そんな堅いやつ、うちにはいねぇ。新人だろうがなんだろうがもうちょっとリラックスしてる。まぁ最初だからアレだろうがもう少し普通にしていい」
なまえはそう言われて困る。ベルさんにはそんなこと言われたことがなかったからだ。ベルさんにもこんな風にずっと接してきた。
「慣れねぇかもしれねぇがまぁその内慣れるだろう」
『…はい。明日は何時出発ですか?』
「朝8時だ」
『了解です。これからよろしくお願いします』
そう言って頭を下げると、スクアーロ隊長は、おうと言った。
「こちらこそよろしく頼む」
私の目の前に手が出された。これは握手を求める手であった。私は恐れ多くもその手を握り返した。今日のどんなときよりも、その手は震えていた。
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