乾杯の数だけ人は幸せになれる(御幸)
「またフラれたのかよ…」
『うるさいわ!!御幸は静かに慰めててよぉ…』
何本目かわからない空き缶を潰してゴミ箱に放るが、縁に当たって跳ね返る。それを御幸がなおしに行くのを見るのも一体何度目のことだろうか。
付き合って2ヶ月、私は合コンで出会った高島君と別れてきた。終電があるかギリギリの時間だったにも関わらず、すぐに来てくれたのは御幸だけだった。倉持にはいつものごとく死ぬほど笑われ、ゾノは明日バイトが早番らしい。
うちに来てもらって、御幸がまぁ飲め飲めと来る途中で買ってきてくれたらしい缶ビールやチューハイをぐびぐびと飲んでいた。
『何で誰ともうまくいかないのかなぁ私って』
「お前が男見る目なさすぎるんだろ」
『そんなことありません〜』
「いや、俺思ってたもん。こりゃ長続きしねぇなって」
御幸が甘ったるそうなカシオレを飲みながら言った。
『そんなこともっと早く言ってよぉ!!』
「お前付き合いたてでそういうこと言うと怒んじゃん」
はぁ…と大きくため息をついた。幸せそうな大学生はたくさんいるのにどうして私は幸せまでたどり着けないんだろう。
『御幸おかわり!!』
「はいはい」
冷たいビールを渡されて、缶の開く音に快感を覚える。ふわふわした頭で、ああもうずっとこうやって飲んでたいなんて考えた。
「なぁなぁ、なまえちゃん。試しに俺なんてどうよ?」
御幸がニヤッと笑って言った。
『冗談よしてよ』
缶を傾けようとしたら、手首を握られた。
「いやいや冗談抜きで」
語尾にハートマークがつきそうな声色で言われた。何だか御幸が近い。
『顔近いよ』
「お前は酒臭い」
『一也君が飲ませてくれるからね〜』
結局缶を傾けてまた酒をあおった。
「お前の友達やってる身にもなれよ。お前が付き合い始めたらお祝いに飲み、別れたら慰めに飲み、しかもそのスパンの短いこと短いこと…」
『私だって長続きしたいんだからー!』
「だから俺にしろって言ってんの」
『御幸なら私と長い間一緒にいてくれるの?』
「現在進行形でそうだろ!」
御幸のそんな声の返事には、私の声じゃなくて、鳥のさえずりが聞こえた。心なしかカーテンの向こうが明るくなっているような気がした。
『んーそうだねぇ』
私はまた缶を傾けた。中身はまた空になった。
『もし私のこともらってくれる人がいなかったら、御幸がもらってくれるかな』
また空の缶をぐしゃりと潰して尋ねた。空き缶を投げる。きれいな放物線を描いて、その缶はまた縁に当たって跳ね返った。
「俺のこと待たせる女なんか初めて会った」
御幸が立ち上がって私が外した缶をまた捨てた。
「なまえ、知ってるか?どこだか忘れちまったけどな、乾杯の数だけ人は幸せになれるって諺があるとこがあるんだと」
御幸が笑って私に新しい缶を渡した。もう夜は明けたのに。そんなことはどうでもよかった。御幸の目と目が合い、私も笑った。缶の開く音が、二つ。
「俺とお前って超一緒に飲んでるし、きっとお互いを幸せにすんのはお互いだって俺は信じてるぜ」
『クサいセリフだね全く』
缶と缶のぶつかり合う音がした。
もういいや。全部どれもこれも酒のせいにしてしまおう。
そんなことを思って、私は御幸の頬にキスをした。
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