スクアーロ生誕祭2016 | ナノ
翌日。私は大学に行く準備をしていた。朝ごはんをスクアーロが作っている。
『ねぇスクアーロ服とかあるの?』
「ねぇ」
『じゃ私が帰ってきたら服買いに行こう』
「そうだなぁ…流石に何日も同じ服はやべぇよなぁ」
『臭くなったら出て行ってね』
「お前はもう少し言葉をオブラートに包め」
そんな小言を言いながら出てきたのは美味しそうなフレンチトースト。
『昨日も思ったけど料理うまいんだね、スクアーロ』
「お前がやらなさすぎるだけだぁ」
久しぶりにまともに朝ごはんを食べる気がした。
私が帰ってきたらスクアーロの服を買いに行く。さすがに下着とかないと困るだろうしそのままうろつかれるのは私が困る。どうにか国に帰れるとなった時には倍額にして返してもらおうなんて考えていることをスクアーロは知らない。
何となく授業に参加して。つまらない話を90分。何度か繰り返せば1日は終わる。
「ねぇなまえ今日カラオケ行こうよ」
『ごめんパス』
「なまえそればっかじゃん!」
どこかうまの合わない友人とのかったるい付き合い。悪い人だとは思わない。でもどこか信頼出来ない。一緒にいて辛いとか苦しいとかは思わないけど特別楽しいっていうわけでもないというか。当たり障りなくこうやって4年過ごして楽しかったねなんて言い合いながら卒業して。適当に就職して。そんな風に過ごすのだろう。
夢がない、なんて言われてもその通りだから何も言い返す気にもならない。
私はスクアーロとの約束のために帰路についた。
『ただいま』
「おう」
『…いや何やってんの!?』
目の前には大きな剣。こんな大きな剣映画とかでしか見たことない。
「剣の手入れだぁ」
『え?本物?』
「まあそんなとこだ」
『いや流せませんけど!?捨ててきてくれない?私法律違反で捕まる!!』
「馬鹿にするんじゃねぇ!俺が捕まるタマだと思ってんのかぁ!?」
『私まで巻き込まれたら嫌だから言ってるんじゃん!』
ぎゃいぎゃいと口論をしたけど結局なまえが折れた。スクアーロはさすがに剣のことになると引き下がらない。
『…言っておくけど剣は持っててもお金は持ってない誰かの服買いに行くんだから安い所にしてよね』
「てめぇ喧嘩売ってんのかぁ!?」
『だって本当のことでしょ』
人目につかないように裏通りを歩く。外人ってだけで目立つのにこの髪色じゃあ目立ちすぎる。しかも私が一緒に歩いてるって意味わかんなすぎる。
スクアーロは顔が整っているからなのか安物ですら何故か十分に着こなせていた。
『…なんか悔しいな…』
「悪いなぁ。色々状況が整ったらちゃんと金は返してやる」
『3倍返し…』
「せめて倍にしろぉ!」
買ったものをスクアーロが持ち歩く。そしてスーパーによって夜ご飯の買出しだ。
『え?今日マグロ安売りなの?』
たまたまなのか、スクアーロが食べたいと言っていたマグロが驚異の価格で売られていた。
『やっす!!買っちゃう!?これ買っちゃう!?』
「落ち着けぇ」
『だってマグロだよ!?』
「好きなのかぁ?」
『マグロ好きですよ!大好きですよ!でもお金の都合上買ってないんですよ!しかしこの破格!!』
スクアーロがパックを1つ籠に入れた。
『マグロの何作ってくれるの?』
「…お前の家にはなぁ食材どころか調味料も全くねぇ。あるっちゃあるが期限が切れてるもんしかねぇ。つまりお前の財布の状況によりこのマグロが何になるか左右されるってわけだぁ」
『えーマグロのためなら奮発するよー』
「よし言ったな。今日はカルパッチョだ」
スクアーロとスーパーを見て回り、籠がいっぱいになるほどたくさんのものを買った。一人暮らしを始めてこんなに買ったのは初めてかもしれない。
『今日の夕飯楽しみだなー』
「大人しく指でも咥えて待っとけぇ」
スクアーロと二人横並びで歩く街は夕日に染まる。もうじき夜になる。そんな中スクアーロの銀色の髪は夕日に染まって少しオレンジになっていた。
『やっぱりスクアーロの髪は綺麗だね』
気づけばそんなことを口走るほどに綺麗に染まっていた。
「お前の黒い髪も綺麗じゃねぇかぁ」
スクアーロの手が私の髪に触れた。肩につくくらいの髪を耳にかけてくれた。
「何にも染まんねぇからなぁ黒は」
いい色してると思うぜぇなんて言いながら歩くスクアーロに思わずドキリとした。
『ありがと』
「早くカルパッチョ食いてぇなぁ」
『マグロ食べたい』
「俺もマグロ好きだから早く食いてぇ」
なんて言いながら歩くいつもの街は、夕焼けのせいか心なしかいつもよりずっと美しく見えた。