I LOVE YOU!!(及川)
私が彼を好きになったのは、彼がバレーをしてるのを見たときだった。
特に興味もないのに、友達に言いくるめられて見に来たバレー部の試合。私の回りの友達のお目当ては誰もが及川徹であり、友達だけでなく応援に来ていた知り合いではない女子たちも皆、口々に及川くーん!と叫んでいる。私はベンチで話している及川徹を見た。有名だったので、知らないことはなかった。それどころか同じクラスで席が隣だ。でも特別に周りの女の子たちが抱くような気持ちで及川を見たことがない。コートに現れると、大きな黄色い声援。
「及川くーん!!」
たくさんの女子の声に、及川は爽やかに笑って手を振って見せる。それにさらに大きな黄色い声が響いた。
そんなかっこいいか?そういう思いでしかなかった。でも及川は私の姿に気づいたようで名前を呼んだ。
「みょうじ!」
私は小さく手を振る。周りの女子に射殺さんとする目で見られたような気がした。
私は別に及川のことなんてただのクラスメートにしか思ってませんって。そう自分の友達には言った。
「本当にぃ〜!?」
「及川くんの隣だからって〜!」
めんどくさいと思ったことは伝わらないように、別になんとも思ってないよと言った。そして、試合は始まった。
もともとバレーの試合を見るのは嫌いじゃなかったんだけど、その時はすごく引き込まれた。及川が楽しそうにバレーを試合をしているのに、すごく心惹かれた。教室では一切見せることのない真剣な表情。きめたときの心底嬉しそうな笑顔。及川のトスで誰かが打って、相手コートに落ちたときすごく自分まで嬉しくなったのだ。もう及川から目がそらせなくなったことは、自分が一番わかってた。
ああ、こんな顔をするのか。
始めてみたその笑顔に胸が高鳴って気づけば試合は終わっていて。友達たちが及川くんに差し入れ渡しに行こうと騒ぐ後ろについていって、女子に囲まれる及川を見てモヤモヤして私はわかる。
ああ、私は及川に恋をしたんだ。
差し入れを渡して、満足をした友達と帰路を歩いていても離れない及川のあの表情。私が知らなかった及川。私が知る前からあの及川を知っていたたくさんの女子。考える前に、足が動いていた。
『ごめん!忘れ物したから先に帰ってて!』
私は友達の進む方向とは逆方向に駆け出した何か声が聞こえたが、今の私には関係がない。及川に会いたい。会って言いたい。好きだと言いたい。この私の心に巣くってしまった気持ちを及川に知ってもらいたい。そう思った。付き合いたいとかそんなことじゃなくて、私のこの気持ちを伝えたいだけで、その先は見なくてよかった。
会場に戻ると、ちょうど及川が会場から出てきたところだった。
『及川!』
そう叫ぶと、及川は驚いた顔をした。ドキドキと高鳴る胸は走ったこともきっと関係あるだろうけど、何より及川が目の前にいることが一番の要因だった。息切れしていることもかまわず、私は喋り出した。
『楽しそうに笑ってバレーをする及川が好き。教室じゃ見せないその真剣な表情も、点をとったときの嬉しそうな及川もすごくすごく好き。誰よりもかっこよくて、目がはなせなくなるほど、大好き』
そう言ってから恥ずかしくてその場にいられなくて、私は背を向けて走り出そうとしたが。
「何で逃げるの?」
手を及川に捕まれて、それは叶わなかった。
『だって、恥ずかしい』
自分の後ろの及川の方を見ることなくそう答えた。捕まれた手に心拍数は急上昇。自分のものではないように心臓が暴れている。
及川は背を向けたままの私を後ろから抱き締めて。
「俺もみょうじが隣の席になったときからずっと好きだったよ」
ひとめぼれ、と言う及川は私の顔が真っ赤なのをきっとわかってる。及川が触れる肩が、首もとが、ひどく熱い。
及川が私を振り向かせて、笑った。
「顔真っ赤」
言い返せないその言葉に、仕方なくうつむけば及川はふわりと笑って私の頬に触れる。
「可愛いよ」
そう言って唇に、及川のそれが触れるのを感じて、私は静かに目を閉じた。
◎山崎あおい「I LOVE YOU!!」
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