デ・ジャヴ(御幸)
※御幸、夢主共に20代前半くらいの設定
久しぶりに休みができた。ここ最近ずっと働きっぱなしだったのだ。だからといってどこかにでかけよう!なんて思いはこれっぽっちも起きず、だらだら〜っとただ昼直前までベッドの中にうずくまっていただけだ。もう午後である。でもこれと言ってやらなきゃならないこともやりたいこともないので、とりあえず冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、テレビをつける。すると、一発サヨナラ!と大リーグの試合のニュースが興奮しているキャスターの口から伝えられた。
「やっぱり御幸は大リーグに行っても輝きますね〜!」
かっこいい!!と今流行りのどこから見ても欠点なんて無さそうなタレントが高い声で騒ぐ。試合後のインタビューも流される。英語で聞かれるインタビューに英語で返している御幸の様子が。
いつの間にそんな英語ペラッペラになったんだろう。
数年前までは同じクラスにいたやつだったのに。私の方はまだぺーぺーで日々肩凝りと仕事とうまくやり過ごしているというのに。
この御幸は高校を卒業したらプロに行くなんて言った御幸に、すごい!メジャーに行ったらアメリカの色んなところ連れていってね!なんて夢みたいなことを言った私に、笑顔でおうと返してくれた御幸のままなのだろうか。
昨日の夜のうちに買っておいたメロンパンにかぶりつく。えらく甘い口の中。もう御幸なんて映っていないテレビをボーッと眺めては物思いに耽っている。休日らしいと言えばそうなのかもしれないが、気分はあまりよくない。
付き合い初めて3年後。アイツは本当にメジャーに行くなんて言い出して。
「なまえも来る?俺と一緒にアメリカ行こうよ」
そんな夜にふらっとコンビニに行くような誘い方だったのはいまだに忘れられない。やっぱりコイツはバカだと思った。
「お前言ってたじゃん。連れてけって」
そんな小さなことを覚えていたのに喜んだことも今でも覚えてる。しかし、私はそれに対してこう返したのだ。
『私今のままじゃ御幸に追いつけそうもないからもう少しちゃんとした大人になったら御幸のところに行きたい』
御幸はプロに入ってすぐに実力を発揮してその名前を日本中に轟かせた。そして日本でのプレーも数年で、アメリカ行きを決意した。私はそんなやつについていけるほど大人じゃない。立派な人間じゃない。
そう伝えれば、らしくねー遠慮だな、なんて言われたが御幸は納得してくれたのだ。
あれから何度目の夏か忘れたが夏が来ようとしている。私は結局変われたのだろうか。何も変わっていないような気がして悔しくなった。うるさいテレビを消して、ソファーにダイブする。このままどこまでも沈めそうな気がした。
そんな時私のケータイが着信を告げる。誰だよめんどくさとか思いながら、一生懸命ケータイに手を伸ばした。画面に表示されていたのは、御幸で。
『…もしもし』
「何だ?仕事中じゃねーんだ?」
『今日休み』
何だよあの頃と変わってないみたいな声で。とか思った。
「そうか。久しぶりだな」
本当に久しぶりだ。とりあえず1ヶ月は話してない。
『…うん』
さっきまで私よりどんどん先にいきやがってバカヤローなんて思ってたのに声を聞くだけで安心する私が一番バカヤローだ。涙が出そうになるのを抑えて返事をした。
「このまま自然消滅ってことにされんのかと思ったわ」
『んなわけないでしょバカ』
「だよなー。お前そういうの何気しっかりしてるもんな」
『御幸と一緒にしないでよ』
「はっはっは。相変わらず素直じゃねーなぁ。泣きそうなクセに」
『…』
黙り込むしかできなかった。それは本当だったから。何でわかるんだろうなー。
「…あれ?カマかけたんだけど当たった?」
『…うっさいバカ』
やっぱりコイツはダメだ。
「はっはっは。お前本当に俺がいないとダメだよなー」
なんて自信家な発言なのか。呆れているが、内心言い返せないとこもあるような気がした。
「なまえ。俺はまぁ確かにアメリカにいるから傍にはいてやれねーけど、だからと言って俺に頼るのやめるなよ」
珍しく真面目なトーンで話す御幸。私は何も言わなかった。
「まぁ時差とかあるけどよ。いつでも電話とかしろよ。俺もするし。出れなかったらかけなおすから」
ついに涙が出てきて、頬を伝った。うん、と小さく返事をすれば御幸が向こうで笑った気がした。
『私もっと頑張るね。御幸のとこに早く行きたい』
「いつでも来いよ。迎えに行ってやるから」
ああ、やっぱり私この人が好きなんだなーなんてもうそんなこと思う歳ではないかもしれないが、乙女みたいなそんなことを思った。
電話していたら気づけば夕暮れ時だった。御幸のいるアメリカがどんなとこなのか、私はよくわからないし御幸がどんな生活をしているのかもわからないけど、私はここでとりあえず頑張ってみようと思うの。
◎パスピエ「デ・ジャブ」
所々この曲からヒントを得てハッピーエンドにしました。
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