君だけ(森山)
もう夜も更けて、空は闇に包まれている。隣にいるのは森山先輩。部活で疲れてしまったのか眠っていた。私たちは付き合ってはいる。世間的には彼氏だとか彼女だとかいうやつなんだろうとは思う。でも、あのバスケ部のスタメンの人とまさか何の取り柄もない私が付き合っているなんて考えられない、と思う。告白されたときには正直驚きばかりだった。本当に森山先輩は私のことが好きなのだろうか。そんなこと思ったこともあったけど、会うたびに私の名前を呼んで、いちいち照れ臭いことを言ってくる森山先輩を見ていたらそんな不安はなくなった。でも恋する乙女には不安は付き物なのかもしれない。また別に悩みごとができた。
私はあまり男性経験がないから手を繋ぐだけでもとても恥ずかしいし、今だって一緒に帰ってるけど実はとっても緊張してたりする。でも、私だって森山先輩が好きなのだ。出来れば一緒にいたい。森山先輩に触れたい。でもこの羞恥心が私を邪魔する。私より高いところにある肩にもたれられたら、なんて考えて私はため息をつくのだ。
「ごめんね、寝ちゃって」
森山先輩が言った。
『いいですよ!お疲れですよね、部活大変ですし。だから今日は私ここまでで大丈夫です!送ってもらうと森山先輩に負担かかっちゃいますし!』
「え、でも俺地下鉄で寝てたしあんまなまえちゃんと話せてないからなー」
『それでも疲れてる森山先輩に負担なんてかけられませんから!』
そう言うと、森山先輩はそうか、と困ったように笑った。そんな顔させたい訳じゃないのに。できれば送ってもらってもっと一緒の時間がほしいのに。失礼します、と頭を下げて私は森山先輩に背を向けて歩き出した。
森山先輩は私のどこが好きなんだろう。そう思う。別に可愛くもないし特別おしゃれに敏感とかでもない。森山先輩は可愛いって言ってくれるけれど、全然そんなことなんてない。
明日はもう少し一緒にいられるかな。少し泣きそうになって、私は眠りについた。
翌日のお昼。なんと森山先輩が教室に遊びに来た。
「一緒にお昼食べれない?」
『はい!今行きますね!』
友達に行ってくる!と言ったらヒュー!と冷やかされた。私は駆け足で森山先輩のところへ行った。
二人で屋上に向かう。屋上には誰もいなくて、日陰に森山先輩と隣同士で腰かけた。
「昨日の埋め合わせもかねてと思ってね!」
森山先輩は嬉しそうに笑ってくれた。私も森山先輩と一緒にいれるのが嬉しかった。
『嬉しいです…!』
私はお弁当を出して、梅干しから食べる。お弁当すら可愛いげがない。もっと女の子ってあまーい玉子焼きとかカラフルな野菜とか入ってるのかもしれないけど、私のお弁当はなんていうか地味だ。
もし私の他に森山先輩のことが好きな人がいたら、私よりきっとずっとずっとお似合いなんだろう。私より可愛くておしゃれで女の子らしくて。きっとそんな子がでてきたら私なんて、敵わない。
「…浮かない顔してるね?」
森山先輩が私の顔を見て言った。何かした?そう尋ねる森山先輩に私は言ってしまった。
『森山先輩は私のどこが好きなんですか?』
「どこ!?えええええありすぎて困っちゃうなぁ…」
『本当ですか?私別に可愛くもないしおしゃれでもないし女の子らしいわけでもないし、何も好きになるようなところが見つからないと思うんですよ』
そう言ったら森山先輩はえ!?と言った。
「俺はそんなこと思ったことないけどなぁ」
森山先輩が私の頭をぽんと撫でた。
「俺よりずーっと小さくて俺にいつも笑顔で接してくれて、気配り上手で俺のこと考えてくれるなまえちゃんのどこが好きかなんてありすぎてすぐに答えられないよ」
森山先輩がそう言った。何でこの人は私にそう言ってくれるんだろう。私なんかじゃ森山先輩に釣り合わないのに。
『私なんかじゃ、森山先輩に全然釣り合ってないんですよ』
「…誰かにそういわれたの?」
『いえ。私がただそう思ったんです』
「俺はそんなことないと思うよ?むしろ俺の方が助けられてるし」
『…先輩。私頑張ります』
もし釣り合わないなら、私が頑張って森山先輩に似合うような人になればいいんだ。そう思った。私がこんなことを言っても、そんなことないよって言ってくれるのはきっと森山先輩しかいない。私だって、森山先輩が好きなのだ。
「え?」
『森山先輩に似合うように頑張りますから!森山先輩の隣に自信たっぷりでいられるように、可愛くなります!そう努力します!』
そう言うと、森山先輩はポカンとした顔をした。そして、笑った。
「困ったなぁ。これ以上好きになったらどうしよう」
そんなこと言ってくれるのは、森山先輩だけだから。
『もっと一緒にいたいですから、森山先輩と!』
そう言うと、森山先輩の手が私の頬を撫でて。そのまま唇同士が触れた。
「…楽しみだなぁ。他の女の子なんて気にならなくなっちゃうね」
女好きと噂がある先輩からその噂を取り除けるような彼女になりますね。
そう言ったら森山先輩はまた笑った。私もそんな愛しい人の顔を見て、笑い返したのだった。
◎山崎あおい「君だけ」
|