50000打 | ナノ

天気予報士の憂鬱(緑間)


いつも自転車でリアカーを引いている男子高校生がいる。そしてそのリアカーには緑頭のバンビ君が座ってる。本名がバンビかは知らない。でも睫毛がとっても長いからバンビ君って名前で私の中で呼ばれてる彼。いつも歩く私を過ぎ去っていく彼らを眺めるのが何だかんだって好きだった。彼らにとっての日常であるあの乗り物が私たちにとっては非日常で、何て楽しそうな毎日だろう。そう思ったら目で追っていた。

でも彼らには毎日会えるわけではない。

『…今日も雨かぁ…』

ため息が出る。雨の日は二人を見かけることはなかった。たしかに雨の中あれでは風邪をひいてしまうけども。

朝彼らに会えないとその日は何だかテンションが上がらない。梅雨だから仕方ないのかもしれないが、やっぱりつまらない。

明日は晴れるかな。そんなことを思いながら、毎日を過ごし、数日がたった。

久しぶりに晴れた。カーテンを開けるとポカポカとした日差しが部屋に入る。今日はバンビ君に会えるかもしれない!私は軽い足取りで支度を済ませて家を出る。そして。今日は見た。あの二人を。私を追い抜かしていく。その時だった。

「高尾待つのだよ!」

「ん?どったの真ちゃん?」

そうか。チャリの男の子は高尾君って言うのか。バンビ君は真ちゃんか。

「あの女子が今日のラッキーアイテムを持っている!今すぐにもらいにいくのだよ!」

「こんな通りすがりの状態で!?いや無理っしょ!」

「人事は尽くすのだよ!」

二人が話しているのをはじめて聞いたが、聞いてるだけで面白い。やっぱり面白い。

「すみません。それ貸していただけませんか」

バンビ君が話しかけたのは…私で。バンビ君が指差すのは私の鞄についた鹿のぬいぐるみ。ちなみにバンビ君を思い出したというのも買った理由の一つだ。

『え?何で?』

まさか話せるとは思わなかった。

「今日の蟹座のラッキーアイテムが使い古した鹿のぬいぐるみだからです」

真顔で答えるバンビ君。

『蟹座なの?』

「はい。ちゃんと明日にはお返しします」

別にバンビ君ならいいかな。そう思った。

『いいよ。はい』

カバンから鹿のぬいぐるみを外してバンビ君の手に渡した。

「ありがとうございます。いつも朝ここを通ってますよね」

『うん』

「じゃ次お会いしたときに必ずお返しします」

『わかった』

バンビ君はペコリと頭を下げた。

「真ちゃん!朝練遅刻するよ!」

「わかってるのだよ!」

『バンビ君朝練あるんだ。頑張ってね』

それじゃあと私は学校へまた歩き始めた。
私はまだ気づいていない。まだ、知らない。

数分後、バンビ君と言ってしまったのに気づくことを。

24時間後、ぬいぐるみを返してもらえることを。

24時間3分後、本名はバンビ君じゃなくて緑間真太郎だと知ることを。

私と君が友達になるまでそう長くはかからないことを。




◎パスピエ「天気予報士の憂鬱」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -