雨と少女と(チャリ芽衣)
ワンライに参加しました。
テーマは確か『梅雨』
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。
大人なら喜べないそんな音も、無邪気な子供には楽しい音楽となる。
それはもちろん、今まさに鼻歌を歌いながら濡れた通学路を歩く少女にとっても同じだった。
「ふんふん、ふ〜ふふっふっふふ〜♪」
お気に入りの赤い長靴に、おそろいの雨がっぱ、そして今日が晴れ舞台となった、大きな水玉模様がプリントされたピンクの傘。
母にせがんで買ってもらったこの傘が使える日を、芽衣はどんなに待ち望んだことか。
雨はまだかまだかと毎日のように窓に張り付いていた日々も、今日でおさらばだ。
「雨さん、芽衣がおうちに帰る時も、たくさん降っててね」
芽衣はご機嫌ななめの空に向かって、お願いだから、と祈る気持ちで声をかけた。
「…ない。芽衣の傘、消えちゃった…!」
期待通りに放課後まで雨がザーッと降り続いていたのだが、芽衣がいざ帰ろうと玄関の傘立てを覗いても、あのピンクの傘はどこにも見当たらない。
ない、ない、ない。
半ば泣きそうになりながら横を通り過ぎる友達に聞いてみても「知らない」と先に帰ってしまう。
お気に入りの傘がない今、雨を見てもちっとも嬉しくない。
朝の笑顔はどこへやら。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
芽衣の目からは大きな雨粒が零れ落ちた。
「泣かないで、芽衣ちゃん」
突然頭上から聞こえた声。それと同時に、芽衣の視界いっぱいにピンクの水玉模様が広がった。
「芽衣の…傘」
ひょこっとその傘から顔を覗かせたのは、芽衣にしか視ることのできない、大切な友達。
困った時にはいつも助けてくれる、心強い人。
「傘を届けに来たよ、お嬢さん。さあ、一緒に帰ろう」
大きくてがっちりとした手に、小さな小さな手を重ねて。
芽衣はとびきりの笑顔で「うん!」と頷いた。
「ちゃっちゃちゃ〜ちゃちゃっちゃちゃちゃ〜♪」
「ちゃっちゃちゃ〜ちゃちゃっちゃちゃちゃ〜♪」
雨と少女と もう一人。
オレンジ色の夕暮れに響く音楽は三重奏で。
幸せなその音楽が途切れる頃、虹がひっそりとかかっていたことを、二人は知らない。
「傘の中、入らないと濡れちゃうよ」
「ん〜?僕はいいんだよ。君が濡れなければ、それでいい」
「でも、」
「いいから、そんな悲しい顔しないで」
「濡れたら風邪引いちゃうって、お母さんが言ってたもん。傘がない子には、一緒に入れてあげなきゃダメなんだよって」
「…芽衣ちゃんは優しいね。それじゃあ、これはどう?」
「わぁ、高い!」
「いつもより空が近いだろう?それに僕も濡れない。どう?一石二鳥だろう」
「いっせきにちょお…?」
「ふふ、君にはまだ少し早かったかな」
「えへへ、いっせきにちょう!いっせきにちょうだよ!」
「こらこら、暴れちゃだめだよ。あ、せっかくだし何か歌おうか」
「ちゃっちゃちゃ〜ちゃちゃっちゃちゃちゃ〜♪」
「はは、変な歌」
「ちゃっちゃちゃ〜ちゃちゃっちゃちゃちゃ〜♪」
「ちゃっちゃちゃ〜ちゃちゃっちゃちゃちゃ〜♪」
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