貴方に捧げるこの華達 ■1/2
きれいな曲線を描いた三日月が夜空に浮かんでいる。
その下には、電気の明かりがついた家々が所狭しと並んでおり、星の明かりを打ち消している。
とあるそれなりに広い家の玄関先、四人の男女が己の家に帰ろうと歩き出していた。
「おい、ここの」
その四人を呼びとめたのは、今玄関から顔を出した十斗だった。
塀を出て曲がろうとしていた葉霧たちは、その声に立ち止まる。
「なんじゃ? 十斗」
その内の一人、ここのは大量の紙袋を持ち直しながら、声のした方へと振り向いた。
うなじの辺りで一つに結ったぬばたまの黒髪が、さらりと揺れる。
「話がある。ちょっといいか?」
庭のほうを指差しながら、十斗は言った。
いつもと少し違う様子の十斗に疑問を持ちながら、ここのと葉霧たちは十斗が指差したほうへ目を向ける。
しかしすぐに十斗に視線を戻すと、ここのは、
「話があるならここでせい」
「いや、その……」
凛と放たれた言葉に、急にしどろもどろになる十斗。気のせいか、頬も少し朱に染まっている気がする。
その様子にピンときた葉霧は、内心羨ましくもにんまりと笑うと、
「ここの。アタイ達、向こうで待ってるからさ。行ってきなよ」
と言い、ここのから紙袋を半ば強引に預かった。
ここのはまだ釈然としないのか、しばらく十斗と葉霧達を交互に見て迷っていたが、やがて十斗のほうへと駆け寄っていった。
その後を壬吾が追いかけようとしたが、無言の葉霧の蹴りによってその場に彼はうずくまってしまった。
思い切り蹴られたところがすねだったので、壬吾は半泣きになりながら大事そうにすねをさする。
十斗とここのが庭のほうへ行く様子を見ていた双葉は、困惑気になぜかを葉霧に尋ねた。
「だってほら、まだ十斗、何も渡してないだろ?」
「あっ!」
葉霧の言葉にようやく十斗がなにをするか分かった双葉。壬吾はまだ眉を苦痛にひそめながら疑問符を浮かべている。
そう、今日は――
「で、なんなのじゃ?」
玄関からけっこう離れた庭の奥までつれてこられたここのは、ため息混じりにそう言った。
しかし十斗は、いまだ顔を染めたまま黙り込んでいる。
十斗にもこんな一面があるのだと認識を新たにしつつ、ふと十斗の手に紙袋が握られているのに気づく。
ここのの方からはよく見えないが、大きめな袋だ。
その視線に気づいたのか、十斗は黙って紙袋をここのに差し出してきた。
「……やる」
か細い声で呟やかれたが、ここのにははっきりと聞こえた。
十斗は俯いたままだから、表情は分からない。でも、きっと顔を真っ赤にしているだろう。
証拠に、わずかに見える耳は真っ赤になっている。
ここのは十斗から紙袋を受け取ると、その中身を覗いた。
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